香澄のカウンセリングレポート(一)

      『心に傷を残した少年の心理状態および行動記録(一)』

患者名……トーマス・サンフィールド(九歳)

病名 ……両親を不慮の事故で亡くしたことによる精神疾患、およびうつ病(詳細はファイルの中で説明)。現時点で分かっている病名なので、今後追加していく可能性があることを明記しておく。

現在 ……亡くなった両親の友人の養子となり、小学生として普通に過ごしている。


 [今回の患者であるトーマス・サンフィールド(以下トム)は幼いころに、不慮の交通事故によって突然両親を亡くしてしまった。それが原因で精神疾患を発症した疑いがあり、小さな心に癒えることのない傷を負ってしまう。

二〇一二年五月一九日 午後三時〇〇分……トムの知人であり恩師でもあるケビン・T・ハリソン(以下ケビン)およびフローラ・S・ハリソン(以下フローラ)から、“トムのをして欲しい”と依頼される。当初は少なからず不安を覚えるが、出来る範囲内で協力することにした。


 二〇一二年五月二六日 午後〇時一五分……私はこの日、心に傷を負ったトムと挨拶を交わす。私が感じた第一印象として、多少ぎこちなさはあるが受け答えはしっかりと出来るようだ。ただ両親を亡くしたばかりということもあり、どこか重く暗い面影を残している。私はカウンセリングおよび少年の治療を行うため、同居という形でトムの心境の変化を静かに見守る予定。

 正直なところ、最初は無愛想で無口な少年という印象だった――だが私はふとした偶然によって、トムの性格や趣味を知ることが出来た。むしろそれが話の突破口となり、私や協力を依頼した友人のマーガレット・ローズ(以下メグ)およびジェニファー・ブラウン(以下ジェニー)と少しだけ距離を縮める。


 二〇一二年六月九日 午後八時〇〇分……その後も色々と話しかけてみるが、思ったより反応は薄い。トムの心は私が想像していた以上に、深く傷ついているようだ。想像以上に心の闇が深いと思われることから、本当に私に心のケアなどすることが出来るのだろうか?

 そう思っていた矢先、私はトムの部屋に置かれているある一枚のパンフレットを目にした。詳しい話を聞くと、“このパンフレットのイベントに参加したい”と言う。このようなことを言いだす少年に対し、私たちは最初驚きを隠せなかった。だがトムの意志は揺るがないようで、何より私は“挑戦してみたい”という率直な気持ちを尊重することにした。

 そしてこのことがきっかけで、私を含め友人たちとの距離をまた少し縮めることが出来た。この小さなきっかけがトムのになることを、私は強く願っている……]

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