【トーマス編(二)】

朝の回想録

               四章


            【トーマス編(二)】

   ワシントン州 トーマスの部屋 二〇一二年六月一二日 午後五時三〇分

 居候という形で、ハリソン夫妻のお世話になっているトーマス。一緒に同居しているハリソン夫妻や香澄たちはワシントン大学で教職員、生徒として各自学問を学んでいた。ハリソン夫妻の家で居候しているトーマスも、一人ワシントン州シアトルに設立されている、小学校へと通う。

 少しずつだが学校の友達とも遊べるようになり、少しずつではあるがトーマスの緊張もほぐれていく。午後五時くらいまで友達と遊んだトーマスは、“それじゃ、僕は先に帰るね”と言って別れの挨拶をした。


 そんなトーマスが一人自宅へ戻ると、時刻は午後五時三〇分――だが香澄たちはまだ帰っていないようだ。だがいつものことだと思い気にすることなく、トーマスは洗面所へ向かい手洗いとうがいを済ませる。その後冷蔵庫に入っている牛乳をコップにトクトクと入れて、トーマスはそれを一気に飲み干す。

「ふぅ。あっ、そういえば今日は確か……」

 台所で自分が使用したコップを洗い終えると、彼は一人リビングのソファーへ座る。そこで朝食時にハリソン夫妻に言われていた、ある言葉を思い出していた……

 

 同日の午前七時〇〇分――いつものようにトーマスは、目をごしごしとこすりながらリビングへ向かう。だが今日は寝癖が付いているのか、洗面所の鏡の前で専用のくしを使い髪型を整える。他にもフローラが使用している化粧品を始め、ケビンが使用している髭剃りなどもある。トーマスは特に気に留めることなく、リビングへと向かう。


 するとそこには朝食の準備をしているフローラが台所におり、“おはよう”と声をかけると彼女も同じように挨拶を交わす。

「おはよう、トム。朝食の準備はもうテーブルに置いてあるから、先に食べてね」

「うん、分かったよ。フローラ」

 いつもの挨拶をして朝食を食べようとした時、リビングのドアが開く音が聞こえる。ケビンが“おはよう”と挨拶をしたので、トーマスも同じように返す。そして台所にいるフローラにも挨拶を交わすと、彼も同じように椅子に座り彼に話しかける。

「トム、最近調子はどうかな? 学校では友達と仲良くしているかい?」

「うん。学校の友達と仲良くしているよ、ケビン」

「そうか、それならいいんだ。……カスミやメグとも上手くやっている?」


“自分なりに努力しているよ”と伝えると、ケビンは嬉しそうに納得して朝食を食べようと声をかける。時折新聞を見ながら朝食を食べているケビンの姿を見て、“これが仕事をしている大人たちの日常なのかな?”と一人思う。

『僕のママとパパもこんな感じで、毎日食事を食べていた気がするな……ケビンもお家で食事をしてから、ワシントン大学へお仕事に行っているのかな?』

 途中スクランブルエッグやサラダを食べつつ、トーマスは“僕も将来ケビンのように結婚して、お仕事するのかな?”と未来の自分の姿を思い描いてる。


 そして台所で五人分の食事を作り終えたフローラも食卓へ座り、少し遅い朝食を食べ始める。

「あぁ、そうだわ。トム、私と主人は仕事の都合で今晩帰りが遅くなるから――夕食は自分で温めて食べてくれる?」

「二人とも帰りが遅くなるんだね、分かったよ。ちなみに……香澄とメグも今日は帰りが遅くなるの?」

だが“二人は夕方までに帰ると思うわ”とフローラから聞いたトーマスの心の中は、どこか嬉しそうだった。

「ところでトム。香澄とメグのこと、どう思っている?」

フローラからも同じような質問をされたので、“僕なりに上手くやっているよ”と再度伝える。

「そう、あの子たちとも仲良くしているみたいね。それを聞いて安心したわ」

そんな何気ない話を楽しみつつ、先に食事を食べ終えたトーマス。いつものように台所へお皿を持って行こうとするが、“そこへ置いておいてくれれば、後は私がやるから”とフローラに言われる。


 結局食べ終えたお皿やコップをそのままにして、トーマスは一人先に洗面所へ行き歯磨きをする。いつものように出かける準備を整え、制服着用の学校ではなかったので、いつも着ている私服を着用して通学用のバッグを開ける。今日の授業で使用する予定の教科書、それに筆記用具が入っていることを確認する。

『大丈夫だね。忘れ物もないし――少し早いけど行こうかな』


 午前七時五〇分には通学する準備を終え、“少し早いかな?”と思いつつも、自分の部屋を出る。すると奥の廊下から二人の女性の声が聞こえ、トーマスがふと目にすると、そこには香澄とマーガレットがいた。いつものように楽しそうに話をしており、階段で彼女たちへ挨拶する。

「お、おはよう。香澄、メグ」

「おはよう、トム。……あら? 今日は随分と早いのね」

「うん。す、少し早く準備できたから、遅刻しないように早めに学校へ行こうと思っているんだ」

相変わらずぎこちなさが残るものの、彼なりに彼女たちへ積極的に話しかける。

「……トムは偉いわね。メグ、あなたも少しはトムを見習いなさい。子どものトムには出来るのに、どうしてメグには出来ないのかしら?」

「失礼ね、香澄。私は私なりに、多忙な日々を過ごしているんだから。……トム、車には気を付けて学校へ行くのよ。行ってらっしゃい」

「うん、行って来ます」

と香澄たちへ挨拶をした後で、リビングにいるケビンとフローラにも同じように声をかける。

 二人から“行ってらっしゃい”と声をかけられ、トーマスは小学校へと向かう。

『今日も二人は元気で明るかったな。どうやったら、あんなに明るく元気になれるんだろう?』


 自分が今朝彼女たちから言われたことを、トーマスはリビングのソファーに座りながら思い出す。考えごとをしながら時計に目を向けると、時刻は夜の六時。


『すごくお腹が空いているわけではないから、一時間くらいだったら待てるかも? それでも香澄たちが帰ってこなかったら、先に食べよう』

 結局香澄たちと一緒に食べようと決めたトーマスは、香澄たちが帰ってくるまで一階のリビングでテレビを観ながら待つことにした。


 それから三〇分ほどが経過し、ガチャリとドアを開ける音が聞こえてきた。同時に元気な女性の声が聞こえてきたので、トーマスは香澄たちが帰ってきたのではと思う。彼女たちはユニバーシティー・ブック・ストアで買い物を楽しんだ後、帰宅した。

 だが外の電気は点いており鍵もかかっていなかったので、彼女たちは“先にトムが帰っているのね”と思い、いつもより少し声のボリュームを上げる。

「ただいま。トム、いる?」

マーガレットの元気な声が響き渡ると、その声に引き付けられるように、トーマスはリビングから姿を見せる。

「僕はここにいるよ。おかえりなさい、香澄、メグ」

「ただいま、トム。あっ、今日はジェニーも一緒なのよ。……いいわよね?」

「うん、僕は大丈夫だよ。……こんばんは、ジェニー」

「こんばんは、トム。今日もお邪魔しますね」

軽く挨拶を済ませ、洗面所で手洗いとうがいを済ませる。


 そして自分の部屋に戻りバッグを置くと、すぐに一階のリビングへ、足並みをそろえて向かう。ここで香澄がトーマスへ、“ケビンとフローラは仕事で遅くなるから、先にご飯食べましょう“と伝える。

「うん、知っているよ。だからその――香澄たちが帰ってくるのを待っていた」

と視線を下へ向けながらも、一人照れ隠しを浮かべるトーマス。それを聞いた香澄たちは、“ありがとう”と言いながら微笑む。


 あっという間に食事を終えた四人は、それぞれが台所でお皿を洗い始める。その間に香澄はトーマスへ、“夜にお部屋へ遊びに行ってもいい?”と尋ねる。特に反対する理由はなかったので、“八時以降なら大丈夫だよ”と伝えた。今が午後七時〇〇分なので、一時間後に部屋へ遊びに行くことを香澄たちは約束する。

 その後トーマスは自分の部屋へ戻り、お風呂に入るためにパジャマを用意する。そして服を脱ぎお風呂場で体を洗い、それから二〇分後に体を脱衣所で拭いてパジャマに着替える。部屋に戻った後で、トーマスは香澄たちが来るまでに色々と準備をしていた。

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