マーガレットの休息

    ワシントン州 ワシントン大学 二〇一二年六月九日 午後四時〇〇分

 マーガレットより一足先にワシントン大学へ戻った香澄とジェニファーは、お互いに新二年生と三年生として講義を受ける。

「マギー、大丈夫かな? 何だか少し悪い気がするなぁ……」

「気にしないで、ジェニー。さぁ、私たちは急いで大学へ戻りましょう」

どこか不機嫌そうな顔をしている香澄と、その様子をただ眺めていたジェニファー。だが決して険悪な雰囲気でもなさそうなので、彼女は今回の一件についてこれ以上語ることはなかった。


 一足遅れて大学に戻ったマーガレットは、六月最初のピアノ発表への準備をしている。普段は音楽理論を学ぶ授業だが、実際にはピアノを使用しながら進めていくことが多い。その過程として、実際にピアノ演奏を行い授業を進めることも珍しくない。

 ワクワクしながらマーガレットが教室へ向かうが、そこに生徒は誰もいなかった。“変ね”と思いつつもマーガレットが一人教室の中に入ると、「講師の都合により、本日の講義は休講になりました」と書かれていた。

『な~んだ、今日は休講か。今日はバイトも休みだし、香澄とジェンは心理学の講義中だし――どうしよう?』


 頭の中でどうするか考えた結果、マーガレットは香澄とジェニファーの授業が終わるまで待つことにした。特に約束をしているわけではなかったが、“二時間ちょっとなら待っても良いわね”とマーガレットは思った。

 そこでマーガレットは図書館へ向かい、空いた時間を利用して音楽理論の勉強をすることにした。図書館の中は静かな環境に包まれており、ある意味静寂の空間にいるようだ。普段はあまり自主的に勉強しないマーガレットだが、この時ばかりは黙々と勉強に励んでいる。


 同時に突然講義が休講になったことを踏まえ、そのことを香澄へ連絡することにしたマーガレット。音を立てないようにスマホのメール画面を立ち上げ、手慣れた様子で文字を打ち込んでいく。


香澄へ

 午後の講義が休講になったので、あなたとジェンの授業が終了するまで、図書館で久々に読書でもするわ。今日は一緒に帰りたいから、準備出来たらメールで連絡してね。それと今講義中だと思うから、返信は講義終了後でいいからね。

                               メグより


『……これでOKっと。本当は自分から勉強するのは好きじゃないんだけど、たまにはいいかな』


 普段は読書などしない性格のマーガレットだが、自分の好きな内容については話が別。音楽理論についての内容は、マーガレットが夢見る劇団員と少なからず関係がある。特に発声練習をする上において、音楽理論の知識や楽器演奏の経験は何かと役立つことも多い。

 そしてマーガレットが一冊の書物を読み終えた時、時刻は午後六時〇〇分。腕時計をチラッと確認しつつ彼女は映画が面白かったと満足げ。

『う~ん、少し長かったけど面白かったわ』

ギューンっと猫のように腕を伸ばしていると、机の上に置いてあったスマホに着信ありと表示されている。着信時刻は今から数十分前。

『……このタイミングだから、相手はたぶん香澄よね?』


メグへ

 今講義が終了したところよ。それと帰る前にジェニーと一緒にフローラの部屋へ行くから、六時二〇分くらいまでに彼女の教員室へ来てくれる? 今日はアルバイトお休みだと思うけど、急用とかあったら連絡してね。

                                 香澄より


『フローラのお部屋か。内容はおそらく、ジェンがメンバーに加わることの報告だと思うけれど……』

 そんなことを思いつつも、音楽理論についての書物を図書館の棚へ戻す。その後図書館を出ると、マーガレットは香澄たちが待つフローラの教員室へと向かった。

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