もう一人の協力者!?
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一二年五月二六日 午後一〇時〇〇分
それから数時間後にマーガレットがアルバイトから戻り、彼女は一人で少し遅い食事を済ませる。その後お風呂で体を綺麗にした後で香澄の部屋へ向かい、彼女と今日体験したことを話しあっていた……
「でも良かったよね、香澄。トムが思っていたよりも、社交的で。……てっきりロボットみたいに、笑ってくれないと思っていたんだから」
「そうね、思っていたよりも普通にコミュニケーションが取れたという印象ね。……少し内気で恥ずかしがり屋さんだけど、私たちのことはしっかりと覚えてくれたみたいだし」
その後もマーガレットは、“私はベナロヤホールでのアルバイトで家にいないこから、トムの面倒は香澄に任せることが多い”と彼女へ相談する。
「それはそうと話は変わるんだけど――香澄、本当に一人で大丈夫? もう一人いた方が良くない?」
「えっ、突然どうしたの?」
表向きは“大丈夫よ”と言う香澄だが、彼女も勉学に励む時間が多く何かと忙しい。そんな香澄の負担を少しでも減らそうと、“私たちが心から信頼出来る人を、もう一人くらい誘ってもよいのでは?”とマーガレットは思っている。最初は聞き流していた香澄だったが、マーガレットの真剣なまなざしに次第に耳を傾け始める。
「……私もあれから少し考えてみたのだけど、確かにあなたの意見にも一理あるわね。でも急に言われても、すぐには思いつかないわ」
「そうだ、香澄。ジェンにも協力してもらうというのはどう? 彼女って香澄と同じような性格だから、きっと力になってくれるわよ」
ジェニファーの話題が出るや否や、香澄は彼女なりに引き受けてくれるか考慮する。
「……う~ん、でも必要以上にこのことを他言するのは良くないと思うわ」
積極的なマーガレットとは対照的に、香澄はあまり乗り気ではないようだ。
「香澄、私はあなたのことを思って言っているのよ」
表向きはあまり積極的な行動に出ない香澄だが、“二人では少し荷が重いかもしれないわね”と内心思っている。なので今回は珍しく、香澄がマーガレットの話に乗ることにした。
最終的に自分たちの一存では決められないため、二人はハリソン夫妻に相談することにした。彼女たちが一階へ向かうと、案の定彼らはリビングでテレビを見ていた。
そんな二人に気付いたのか、ハリソン夫妻は録画していた番組を一時停止して、彼女たちを招き入れる。
「やぁ、カスミにメグ。もう我が家の雰囲気には慣れたかな?」
「もちろんです。香澄はともかく、私は子供の時から遊びに来ているんだから」
などと冗談で返すマーガレット。
そんなマーガレットの腰を軽く叩き、今回は世間話をするために来たのではないことを、香澄はさりげなく知らせる。
「あっ、ケビンにフローラ。ちょっとお話が……」
“何だい、二人とも?”と問いかけるハリソン夫妻に対し、二人は友人ジェニファーについて話を進めていく。
マーガレットが夜いないことが多いことに加えて、香澄一人に背負わせるには荷が重いことも付け加える。そこで香澄たちが信頼する友人、“ジェニファー・ブラウンを新たに加える”という相談を持ちかける。だが“あまり表沙汰にしたくない”と思っているケビンの顔は、どこか険しい顔をしている。
どこか雲雪が怪しい雰囲気を何とかしようと、フローラは香澄に話しかける。
「ねぇ、香澄。あなたが今“ジェニー”って言った女の子ってもしかして、私の講義を受けているジェニファー・ブラウンのこと?」
“そうです”と緊張気味な香澄が答えると、ケビンはその問いかけに興味を持ったようだ。ケビンはその後妻のフローラから、詳しい話を聞く。二人は数十分ほど話を続け、ジェニファーを新たに加えても良いか議論している。
ハリソン夫妻の話をただ見守るだけの香澄とマーガレット。不安な気持ちを覚えつつも、二人の議論は終わったようだ。テーブルに置いてあるワインを一口飲み、ハリソン夫妻はゆっくりと口を開く。
「……本当はあまり口外しないで欲しいのだけど、今回は君たちの言うことを信じることにするよ。そのジェニーという女の子なら、事情を話しても構わないよ。何しろカスミの友達なら、真面目でしっかりしているだろうしね」
ケビンは妻のフローラから聞いた話をはじめ、“香澄やマーガレットの学校内での評判などを総合的に判断”した模様。以外にも早く承諾が得られたことに、二人は思わず気持ちが舞い上がってしまう。
「本当ですか? ありがとうございます!」
香澄に頭を下げられたことに、ハリソン夫妻はどこか照れつつも、彼女たちへ“この話は外部へ漏らさないように、彼女にも念を押して欲しい”と改めて伝える。相手にお礼の意味を込めて頭を下げるのは、日本人の香澄ならではの習慣でもある。
「はい、分かりました。ジェニーなら、その点は大丈夫です。私が保証します」
「よろしく頼むよ。……ところで、フローラ。家にまだ空き部屋ってまだ残っているかい?」
「大丈夫よ、あなた。あと数部屋はまだ残っているから、二人とも安心して!」
「なら良かった。それで二人には悪いけど……そのジェニーという子には、君たちがこの一件について伝えてくれるかな?」
「分かりました」
香澄とマーガレットは今回の一件のお礼を伝えた後、“お休みなさい”とハリソン夫妻へ伝える。二人が言ったことを確認した後、彼女たちはマーガレットの部屋に集まり、今回の一件について流れを話しあう。
「良かったね、香澄。でも話の流れで決めちゃったけど、ジェンは承諾してくれるかな? 私はそれが心配だよ……」
「そうね。“今回の件は内密にして”と事前に伝えた上で、お話するつもりだけど。でも彼女が承諾してくれるかは、また別問題よね」
「でもこれでまた、一歩前に進んだってことにしようよ。それで香澄、立て続けで悪いけど、今後の授業で彼女に会ったら話しておいてね。もしくは……一度三人でお話しした方がいいかな?」
「そうね、とりあえず私の方からジェニーへ簡単に伝えておくわ。その後OKが出たら、詳細は三人で相談しましょう」
と言いながら香澄はスマホのメール画面を開き、今回の一件について文章を打ち込む。そしてジェニファーのスマホへ送信する。
返事は翌日以降になるかと思っていたが、送信から数十分後にジェニファーから“はい、分かりました”という返事が戻ってきた。
「これでいいわね。それじゃ今日はこれ部屋屋に戻るわね。お休み、メグ」
「うん、今日はありがとう。お休みなさい、香澄」
マーガレットの部屋を出た香澄はあくびをしながら、自分の部屋へと戻る。
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