寂しがり屋の香澄!?
ワシントン州 香澄の部屋 二〇一二年五月一九日 午後九時〇〇分
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、レストランで優雅な時間を堪能する香澄たち。そして食事を楽しんだ後で、ジェニファーは香澄とマーガレットに“楽しかったです”と伝えて、一足先に自宅へと戻る。
香澄とマーガレットは自分たちの部屋に戻り、お風呂に入って今日の疲れを落とし寝る準備をしていた。今日は早めに寝ようと思っていたマーガレットへ、“メグ、ちょっと相談があるの”と香澄は言い、自分の部屋へ呼び出す。
「珍しいわね、あなたが私に話があるなんて。しかもこんな時間に。……も、もしかして香澄、愛の告白とか!?」
「……やっぱりいいわ。お休みなさい、メグ」
「ウソウソ、冗談だよ。もぅ、すぐ本気にするんだから!」
“本当に大丈夫かしら”と一瞬不安になるが、そんな気持ちをよそに軽く咳払いをして、香澄はマーガレットにケビンの一件を話し始める。さすがに相手の病名などは言えなかったが、その一件を承諾した場合にはハリソン夫妻の家に住まいを移すことも伝える。
だが普通に通学することは可能で、特別変わることはないと付け加えた。そして“メグが希望するなら、一緒に彼の家に行っても良い”ことも伝える。それを聞いたマーガレットは、まるで自分のことのように香澄が評価されたことを喜んでいる。
「そ、それってケビンたちに、あなたの成績や努力が高く評価されているってことじゃない!? すごいよ、香澄」
「それはちょっと言い過ぎだと思うけれど……」
「別に迷うことなんてないと思うよ。教育実習の代わりになるし、何より実際にカウンセラーとして、その男の子のお世話が出来るんでしょ!? しかもケビンとフローラの家で」
普段香澄は口数が多くないという理由もあるが、“メグと離れるのが寂しい”と本人に直接伝えるのは、どこか恥ずかしいようだ。そんな心境の中マーガレットからのアドバイスを聞き、香澄の心はさらに揺れる。
「そう、あなたは賛成なのね。……それでね、メグ。お願いがあるんだけど」
「何、そんなに改まって?」
ここで初めて香澄はマーガレットに、“一人だと不安だから、一緒に手伝って欲しい“と改めてお願いする。
突然こんな重苦しい内容をマーガレットへ伝えたことで、最初はどんな顔をされるか不安な気持ちで一杯になる香澄。いくら幼いころからの知り合いとはいえ、マーガレットにはマーガレットの生活や事情がある。また今回の依頼はあくまでも香澄の教育実習に関する意味合いが強いので、マーガレット本人にとってすれば断っても何ら問題はない。
だが“一人では不安”という香澄の正直な気持ちを知ったためか、以外にも早くマーガレットは答えを出す。
「明日の午前中にさっそくケビンへ電話しよう、香澄。“来月からしばらくお世話になります”って」
「メグ、それってつまり……私と一緒に来てくれるってこと!?」
「もちろんよ、他ならぬ香澄の頼みだもの。多少の無理はするつもりよ」
マーガレットは歓迎の意味を込め、両手で香澄を優しく抱きしめる。最初はびっくりした香澄だったが、抵抗することなく彼女の両腕もまたマーガレットを優しく包み込む。
「でも私、香澄みたいに頭良くないから迷惑かけるかもしれないけど……本当にいいの?」
「あなたがいい加減なのは、今に始まったことじゃないでしょ!? いつも通りに接してくれればいいのよ」
「あぁ~、そういうこと言う? ……だったら私もあなたの秘密、みんなにばらすわよ」
突拍子もない発言をするマーガレットに対し、思い当たる節がない香澄。
「学校では優等生の香澄も、実は寂しがり屋だってことよ さっきの“お願い、メグ”って言っていた時の顔――可愛かったわよ」
普段見せることのない表情を見せた香澄に、“可愛かったわよ”と言いつつも、彼女をからかっている。
「ち、ちょっとメグ!? 私は別に寂しがり屋じゃないわ。変なこと言わないでよ」
「照れない、照れない。……何だったら、今日は一緒のベッドで寝る? 寂しがり屋の香澄?」
「……いい加減にしなさい、メグ!」
そんな他愛のない会話を楽しみながら、彼女たちは楽しい夜の時間を過ごす。
翌日朝食を食べ終えた香澄とマーガレットは、早速ハリソン夫妻の自宅へ電話をした。すでに心を決めた香澄は、一目散に彼に連絡する。
香澄から“しばらくお世話になります”と電話で聞いたケビンはとても喜んでおり、“さっそく今日にも、大学で手続きを済ませるよ!”と気持ちが高揚しているようだ。“メグも同居する予定ですが、よろしいですか?”と尋ねるが、“メグだったら、もちろんOKだよ”と
「やったね、香澄! とりあえずこれで一安心って感じかな?」
「ありがとう、メグ。……そうね、引越しの段取りは“詳細が分かり次第、こちらから連絡する”って言っていたから」
来月からの予定が決まった二人はケビンからの連絡を心待ちにして、大学二年生最後の五月を過ごしていた。
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