終章 命の天秤(心に咲く新しい命)
心の傷が癒えぬまま
終章
ワシントン州 レイクビュー墓地 二〇一四年六月六日 午前一〇時〇〇分
突然の不幸な事故により、トーマスが他界してから今日で二日が経過。依然として哀しみに打ち浸れる香澄たちだが、“改めてトーマスを供養したい”という想いを胸に秘めながら式を用意する。
当初はトーマスが通う学校の友達も式に呼ぶつもりだったが、“これ以上、サンフィールド家の名を汚したくない”というハリソン夫妻の願いもあった。そこで急遽予定を変更して、家族葬に近い形でトーマスの魂を
そして香澄たち・ハリソン夫妻以外の参拝者として、後日入院する予定だった病院の医師のダニエル・エバンズ、そしてトーマスの看護をする予定だったナースのキャサリン・パープルも参列した。さらにサンフィールド家・ハリソン家とも交流のある、シアトル市警察の警察官ブルース・ホワイト警部、ベナロヤホールの支配人アレクサンダー・バーナードも参列している。
『レイクビュー墓地で安らかに眠る』
トーマス・サンフィールド 二〇〇三年~二〇一四年
せめてトーマスが安らかに眠れるようにと、静かに黙とうをささげる香澄たち。そしてトーマスが大好きだったハムサンドを、お花と一緒に添える……
まさかこんなに早く葬儀を体験することになるとは思っていなかった香澄・マーガレット・ジェニファーは、今でも信じられないという心境で胸が苦しい。しかし香澄たち以上にひどい喪失感を感じているのは、彼らの中で一番トーマスを可愛がっていたフローラだろう。
「も……もう二度とトムの声が聞けないなんて。あの子の大好きだったハムサンド、これから一体、誰に食べてもらえばいいの?」
まるで本当の息子のように愛していただけに、トーマスを失ったフローラの心の傷は計り知れない。
「ふ、フローラ……」
哀しみに打ち浸れる姿をこれ以上見ていられなかったのか、思わず声をかける香澄。だがつらいのは自分も同じで、それ以上の言葉をかけることは出来なかった。
「……あ、あら。か、香澄……どうしたの?」
「い、いえ……その……」
フローラと同じように、何とか自分の気持ちを押し殺している香澄。
「大好きだった……か。ほんの少し前まで私たちの隣にはトムが一緒にいたのに、こんなに早くあの子のことを過去形で呼ばなければいけない……なんて」
つらく悲しい心を抑えようと、強く唇をかみしめ両手をぐっと握りしめるフローラ。そんな涙をこらえる姿に耐えられなくなった香澄は、そっとフローラの肩を抱く。
「か、香澄!?」
香澄は何も言わなくても、彼女の手や温もりがすべてを語ってくれた。
「フローラ、自分の気持ちを無理矢理押し殺しても……ただつらいだけです。泣きたい時に泣かないと、もう二度と泣けなくなってしまうから」
そんな香澄の心の声を聞いた瞬間、これまで我慢していた感情を再度表に出すフローラ。心の声を吐きだすように香澄の体を押さえながら……何度も……何度も……
一通りの供養を終えた後に、香澄たちはサンフィールド家のお墓にトーマスの亡骸を土葬で埋葬した。
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