深い愛情と哀しみ

     オレゴン州トーマスの部屋 二〇一四年六月四日 午前三時四〇分

 意気消沈しているハリソン夫妻や香澄たちが視線を上げると、半透明の姿をしている者がトーマスの枕元に寄り添っている。トーマスに寄り添う彼らこそ、彼の亡き両親リースとソフィーだ。


 同時に思わぬ最期を迎えてしまったトーマスの死を、一番悲しんでいる二人でもある。そんな彼らの悲痛な叫び声が、今にも聞こえてきそうだ。

【と、トム……どうしてこんなことを。……す、すべてはが原因……なのか?】

【あぁ、私たちの可愛いトムが……ま、まさか自ら命を絶ってしまうなんて。こ、ことだけが、だったのに……】

その哀しみに浸る表情から、そのように話しているように聞こえた。

 亡きリースとソフィーの姿を目の当たりにして、さらに頭が混乱してしまう香澄・マーガレット・ジェニファーの三人。だがリースとソフィーと交流があったケビン、特にフローラは彼らの姿を見ても驚くことはなく、彼らの愛息子のトーマスを亡くしてしまったことを心から悔いていた。

「い、今さらこんなことを言っても、許してくれるなんて思っていないけど。ソフィー、リース……ほ、本当にごめんなさい!」


 子どものように泣き崩れるフローラを、だたじっと見つめるだけのリースとソフィー。

「リース、ソフィー、本当に申し訳ない。二人は僕らを殺したいほど憎んでいると思うよ。……だ、だけど……この子たちだけは見逃してくれないか!? 僕とフローラはどうなっても構わない! だから……だから……」

ケビンもまた罪を悔いると同時に、“自分とフローラの命と引き換えに、香澄・マーガレット・ジェニファーのことは許して欲しい”と必死に頼み込む。


 涙が枯れるまで泣き続け、そして声が枯れるまで謝罪を繰り返すフローラとケビン。同様に香澄・マーガレット・ジェニファーたちも、自分たちが行ってきた罪の深さを悔いている。

 そんな彼らの気持ちが通じたのか、リースとソフィーの顔はどことなく穏やかだ。

【……もういいんだよ。僕らはずっとケビンやフローラたちのことを見ていたけど、にしてくれた。だから僕らは君たちを恨む気持ちなんて、少しも持っていないよ】

 今まで聞こえなかった彼らの言葉が、なぜか自分たちの頭の中に入ってくる――そんな不可思議な現象に、彼女たちは混乱してしまう。

「な、何よこれ? 一体どうなっているの!?」

オカルトに強い興味を持つマーガレットでさえ、この不思議な体験を理解出来ないようだ。


 だがそんなマーガレットをよそに、リースとソフィーは彼らに感謝に気持ちを伝える。

【フローラ、ケビン。そして……香澄、メグ、ジェニー。今までトムと仲良くしてくれて、本当にありがとう。今回は非常に残念な結果となってしまったけど、トムは最期にを取り戻してくれたんですもの。ほら見て、この寝顔――この子ったら、こんなにも可愛い。い、今にも“おはよう、ママ”って声が聞こえそうだわ】

 そう伝えた後に、トーマスの顔を優しく撫でるソフィー。だが感謝の言葉とは裏腹に、細長い瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちている。やはり愛する息子を亡くした悲しみは計り知れない。

 

 その姿を見て胸が締め付けられそうな気持ちになりながらも、香澄なりにけじめをつけようとサンフィールド夫妻へ語りかける。

「り、リース……ソフィー。こ、こんなことしか言えませんが……ほ、本当に……ごめんなさい! 私たちがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに」

 フローラに続いて子どものように泣き崩れ、何度もリースとソフィーへ頭を下げ続ける香澄たちの姿があった。

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