終章 命の天秤(香澄の心とトーマスの命)

冷たい銃口が語る未来

                終章


      オレゴン州トーマスの部屋 二〇一四年六月四日 午前二時四五分

 誰もが予想しなかったトーマスの凶行に対し、なすすべがなかった香澄たち。目を背けてしまうほどの場面は、一体どんな結末を呼び寄せるのだろうか?

 銃声が鳴り終わってから十秒ほどの時が流れ、部屋にはトーマスの凶行の犠牲になったであろう、香澄の死を惜しむ親友や知人らの声が聞こえる……


 一同が香澄の死をいとおしむ中で、魔法をかけられたかのような沈黙を破ったのは、意外な人物の一言だった。

「……あ、あら? わ……私は……!?」

自分がトーマスに撃たれたと思い込んでいた、香澄自身による意外な一言。

 瞼を閉じた状態で自分の胸にゆっくりと手を当ててみると、しっかりと心臓の鼓動音が聞こえてくる。また体に痛みも感じなかったことから、トーマスが撃ったと思われる銃弾は香澄から狙いがそれたようだ……

 その後香澄は自分の身を心から心配してくれた親友や知人らに声をかけ、自分は無事であることを伝える。

『どうやら私は無傷のようね。……でもおかしいわね? あの至近距離でトムが狙いを外すわけ……』

ふと疑問に思った香澄は、恐怖のあまり開くことが出来なかった瞼をゆっくりと開ける。


 うっすらと瞼を開けることで、明らかになった真実。疑惑と不安に満ちた香澄の瞳には、小さな手に冷たい銃を持ちながらも大好きな猫のぬいぐるみを抱えたトーマスの姿がある。だがその様子はどこかおかしく、大好きな猫のぬいぐるみを抱えたまま一向に動く気配が感じられない。

 香澄がそっとトーマスの様子を見てみると、なぜか彼が抱きかかえる猫のぬいぐるみが赤く濡れている。そして“トムに撃たれた”と思っていた香澄本人は、なぜか無傷。

 

 これらのパズルのピースを組み合わせた瞬間、香澄の脳裏には驚くべき非情な答えが導かれる。

「……ま、まさか!?」

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