終章 命の天秤(命と心の狭間の中で)
逃げ惑う心と切なる願い
終章
オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一四年六月四日 午前二時〇〇分
ついにトーマスがこの家にいると確信した香澄たちは、急いで二階エントランスへと向かう。だが二階のどの場所に逃げたか、正確な場所までは把握出来ていない。そこで香澄たちは一階の探索時と同じように、各自手分けしてトーマスを探すことになった。
だが香澄たちが分かれて探索を始めようとした矢先、二階エントランスの東側で誰かが扉を開く音が聞こえてきたような気がした。“気のせいかもしれない”と思うのもつかの間、様子をうかがいながらも扉を開けた者と視線が重なる。
「!!」
扉を開けた者とは、香澄たちが探しているトーマスだった。“どうして僕の家に、香澄たちがいるの? 行き先も知らせていないのに!?”と戸惑いながらも、彼女たちを避けるように扉を閉め、あわてて逃げ出すトーマス。
「待って、トム。……みんな、あの子を追うわよ!」
「任せて! さぁ、ジェニー。私たちは西側へ回るわよ」
しかしケビンはなぜか一階エントランスへと戻り、そのまま客間へと向かってしまった……
彼らは二階で探索を始める前に、トーマスを二階エントランス周辺で見つけた時の対処法について事前に話し合いをしていた。その内容は次の通り。
一 香澄・マーガレットのペアは、二階エントランス東側へと向かう。
二 ジェニファー・フローラのペアは、二階エントランス西側へと向かう。
三 ケビンは一階客間へと戻り、暖炉からトーマスが出てこないか確認する。
サンフィールド夫妻らと交流が深かったハリソン夫妻も、この家の構造について熟知している。トーマスが二階で再び逃走した時のことを考慮して、探索範囲の割り振りをしていたのだ。
その策が思いがけない効果を発揮し、トーマスは二階東側に設置されている自分の部屋へ駆け込むほかなかった。そして自分の部屋に戻ると同時に、すぐに鍵をかける。部屋の片隅でリースとソフィーに買ってもらった、猫のぬいぐるみを胸に抱きかかえながらも、その小さな体を震わせている……
何とかトーマスを追いこんだことを確認した香澄とマーガレットは、西側を回っているジェニファー・フローラのペアへ連絡する。同時にトーマスの部屋に暖炉がないことを聞かされていたこともあり、一階客間で待機しているケビンへ“トムの部屋にあの子を追い詰めたので、急いで来てください!”と伝える。
なお香澄たちがトーマスの部屋だと断定出来た理由として、部屋の前にはトーマスの名前入りのプレートが飾られていたことによるもの。
自分たちの手の届くところにトーマスがいる、やっとの思いで彼を発見したことに安堵する香澄たち。だが本当の試練はここからで、トーマスを無事自分たちの元へ帰ってくるよう説得するかが最大の難関。峠を越すのはこれからだ。
トーマスの部屋の扉に手をかけるが、やはり鍵がかかっていた。だが特に動揺することなく、鍵穴にゆっくりと鍵を差し込む香澄たち……
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