うさぎのストラップ
オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一四年六月四日 午前一時〇〇分
客間を調べ終えた香澄とマーガレットは部屋を出て北へ向かうが、特にあやしい場所はなかった。東側を調べ終えた二人は“一度エントランスへ戻り、状況を整理しましょう”と考え、客間からエントランスへ向かおうとした。
北側の客間の扉を開けて部屋を出ようとした矢先、突然後ろでゴソっと何かが動くような音が聞こえた。後ろから何か物音が聞こえたことで、さらに緊張感は高まる。恐る恐る懐中電灯のスイッチを入れながらも、二人は一斉に振り向く。だが彼女たちの目の前には何もなく、サンフィールド家の肖像画と暖炉が静かに景色を彩っている。
静かに懐中電灯のスイッチを入れながらも、二人は一斉に振り向く。だが彼女たちの目の前には何もなく、サンフィールド家の肖像画と暖炉が静かに景色を彩っている。
「気のせいかしら? 後ろの方で何か物音が聞こえた――と思ったんだけど」
必死にマーガレットが周辺を調べようとしたところ、
「待って、メグ。こういう時はじっとした方がいいわ」
“私に考えがあるの”と香澄に呼び止められてしまう。
二人が意識を集中させていると、再び“ゴソゴソ”という何かが
「……分かったわ、メグ。さっきの物音の正体は人間によるものよ。きっと近くに誰か隠れているのよ」
とっさに誰かが隠れていると推理した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? さっき私たちこの部屋調べたけど、誰もいなかったよ!?」
オロオロと慌てているマーガレットに対し、即座に頭の中でパズルを組み立てる。パズルのピースが合わさった瞬間、香澄はある場所を指さす。
「見て、あそこに暖炉があるわ。すぐ近くで私たちの気配を感じて、思わずあの暖炉の中に隠れていたのよ」
突然発揮した香澄の推理力にマーガレットは驚きつつも、“一体誰にそんなことが出来るの?”反論する。
「いるじゃない、メグ。私たちに会うことを恐れている子が――」
「――ちょっと待って、香澄。あんな小さな暖炉に、どうやって隠れるっていうの? 確かに子供くらいの背格好なら入れそうだけど――あっ!?」
香澄にリードされるかのように、マーガレットもその何者が誰であるか理解した。暖炉に隠れることが出来る背格好、そして彼女たちと会うことを拒絶している、という条件に該当する人物は一人しかいない――トーマスだ。彼しかいない。
トーマスであると判明した瞬間、二人は必死に彼を呼び止める。
「トム、そこにいるんでしょう? お願いだから返事をして!」
「トム……メグよ。私たちやジェン、そしてケビンやフローラも心配しているわ。だからお願い、私たちの前にもう一度元気な姿を見せて!」
香澄とマーガレットは必死に呼びかけるものの、暖炉からトーマスの声が聞こえてくることはなかった。しばらくすると物音も聞こえなくなり、“また振り出しに戻ってしまったの?”と再度落胆する香澄とマーガレット。
暖炉の中に何か手がかりがないか、
「ちょ、ちょっと待って!? 今暖炉の奥に何か光る物が見えたような気がするわね」
香澄が光を発したらしき物を手に取ると、その手の平には彼女たちが見慣れた物があった。
「――これって私たちが初めてトムに会った時にメグがあげた、うさぎの携帯ストラップ!?」
「やっぱりあの子はここにいたのね。……トム、どうして私たちを避けるの?」
だがその一方で、始めた出会った時のことを思い出すマーガレット。同時にトーマスが今でも以前あげたプレゼントを肌身離さず持っていてくれたことを知り、どこか心が踊る。何ともいえない切なさが、香澄とマーガレットの心に深く突き刺さる。
マーガレットすぐにトーマスを追いかけようと、柵の中に体を入れる。だが大人のマーガレットが、暖炉の中を通りトーマスを追うのは不可能。すぐに暖炉から出ると同時に、合図として首を横に振るマーガレット。
「……いいえ、メグ。これはむしろチャンスよ。暖炉を上ったということは、トムは今二階の東側にいるはずよ。急いでケビンがいるエントランスへ戻り、フローラたちと合流しましょう」
「う、うん」
ここでまたしても香澄の冷静な判断力が力を発揮し、一目散にケビンが待つエントランスへ向かう。
エントランスでケビンと合流した香澄とマーガレット。彼女たちが戻ってきた時には、反対側を調べていたフローラ・ジェニファーも一緒。そこで香澄とマーガレットは事情を説明すると、すぐに今度は二階を調べることになった。
なお万が一トーマスが暖炉を使用して、再び一階へ下りるという事態も考えられる。その状況を想定した上で、ケビンは一人客間で待機する。そのためケビンはこの家の合鍵を、一時的に香澄へ預ける。
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