第一五章 愛情と友情

【香澄・マーガレット・ジェニファー編(一)】

遅すぎた後悔

                一五章


        【香澄・マーガレット・ジェニファー編(一)】

  ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一四年六月三日 午後三時〇〇分

 トーマスがハリソン夫妻の自宅を出てから、二時間ほどが経過。しっかりと外出することを伝えたため、通常なら彼の行動に何の不信感も思わない状況だろう。

 だが明日はトーマスをということもあり、前日に彼が一人で外出することを快く思っていなかったハリソン夫妻。

 トーマスが外出して数時間が経過した後に、自分たちの注意力が足りなかったことを痛感するハリソン夫妻。だが突然色んな出来事が重なったこともあり、彼らもそこまで頭が回らなかったのだろう。


 ちょうど香澄たちも自宅にいるということもあり、ハリソン夫妻は彼女たちを急遽リビングへ呼び出した。その内容とは、もちろんトーマスのことだ。

「みんな、色々とあって疲れていると思うけど集まってくれてありがとう。その内容についてなんだけど……」

「分かっています、ケビン。トムのこと……ですよね?」

香澄の問いかけに対し、ただ頷くだけのケビン。“相変わらず勘の鋭い女の子だな”と香澄をどこか評価しつつも、重い口が少しずつ動き出す。

「分かっているなら詳細は省略するね。当初における僕らの予定では、明日の午前中にトムをワシントン大学・メディカルセンターへ入院させるつもりだったんだけど……」

「本来なら何としても引きとめるべきだったんだけど、私たちにはそれが出来なかった。あぁ、どうしてこんなことに……」


 ハリソン夫妻が香澄たちをリビングへ集めた理由は、それだけではない。ふとしたことから強い不安と恐怖を覚えたフローラは、トーマスの携帯電話へ連絡を試みた。だが案の定電話がつながることはなく、“携帯電話の電源が入っていないので、電話をおつなぎ出来ません”と、無情にも機械の音声が流れるだけ。


 だがハリソン夫妻の話にどこか納得出来ないマーガレットは、どうしてトーマスを引きとめなかったのか追求する。

「ねぇ、ケビンにフローラ。明日はトムにとって大切な日なのに、どうしてあの子をんですか? だってこの間、“トムには僕らが事情を説明しておくから、大丈夫だよ”って言ってくれたじゃないですか!? その言葉を私たちは信じていたのに……」

いつになく強気で攻めるような言い方をし、ハリソン夫妻へ釈明を求めるマーガレット。


 これまで彼女は友達の香澄やジェニファーに対し、今回と同じような口調で相手に意見を求めることは多々あった。それもすべて相手を心から信頼していることの表れ。だが心から尊敬出来る大人として意識しているハリソン夫妻へ強気な発言をすることは、マーガレットにとってこれが初めてのこと。


 どこか苛立ちを募らせるマーガレットの発言を聞いたフローラはその瞳に涙を浮かべながらも、その重い口を開く。

「ご、ごめんなさい。実は私たち……トムに明日入院してもらうことを……ま、のよ」


 驚きの真実がフローラの口から発せられた瞬間、その場にいたマーガレットたち一同は自分の耳を疑ってしまう。“えっ、それ本当なの!?”という疑念に満ちた顔で、お互いにアイコンタクトを取っている。

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