ラッコのキーホルダー
ワシントン州 シアトル水族館 二〇一四年六月一日 午後四時〇〇分
これから家族の楽しい時間が始まろうとする矢先、トーマスが目を覚ます。彼の目の前には、白い蛍光灯がいくつか並んでいる。周りには白いカーテンが仕切られていたことから、自分が医務室で眠っていたことを思い出す。医務室で一時間くらい仮眠を取ったトーマスは、先ほどまで見ていた夢の内容についてまたもや思い出せず苦悩する。
『まただ。何で夢の内容が思い出せないの? 僕の中で大切な何かが……記憶が薄くなっていく』
だが理由こそ分からないものの、トーマスのの心には何故か幸せな気持ちに満ち溢れている。目が覚めたことをきっかけに、トーマスはベッドから起き上がり、“もう大丈夫だよ”と医師に伝える。
一応熱を計ってもらうが特に問題はなく、軽く衣類を整えそのまま帰ることになった。だがトーマスが医務室を出ようとした時に、
「……ん? 坊や、そのキーホルダーはひょっとして……」
常駐している医師が、彼のバッグに着けているキーホルダーに着目する。一瞬“先生、一体何を言っているの?”と思いながらも、ふと自分のバッグをよく調べてみる。
そこでそこには確かに医師の言う通り、バッグのポケットからラッコのキーホルダーがひょっこりとはみ出している。“あれ、これは何だろう?”と不思議な顔をしながらトーマスが見つめている。
「それは……ラッコのキーホルダーかな? そうか、坊やは二年前の冬にもこの水族館に遊びにきていたんだね」
「……えっ、二年前の冬?」
医師の口から“二年前の冬”という言葉が発せられることに、驚きの色を隠せないトーマス。その瞬間トーマスの心の中で何かが突き刺さり、何かが通り過ぎてしまう。
医師の話によると、シアトル水族館ではおみやげ品として、毎年飼育している動物をモチーフにしたキーホルダーが販売されている。二年前の冬、つまり二〇一一年の一二月からラッコのキーホルダーが販売されている。順番にラッコ→カワウソ→アザラシ→という形で作られている。
だが不思議なことに、二年前の冬にシアトル水族館へ遊びに行った記憶がトーマス自身にはない。いや、むしろ
「……う、うん。そ、そうだよ。どう、可愛いでしょう!?」
どこか
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