クリスティーヌ・ダーエの面影

  ワシントン州 ベナロヤホール 二〇一二年一二月二五日 午後七時〇〇分

 開演時間の一〇分前になると同時に、ハリソン夫妻が待つ部屋へ戻った香澄たち。時間がくるまで世間話をしながら、開演時間をただ待つ。

 そしてアナウンスなども流れることはなく、定刻通り舞台開演のブザーが劇場内に鳴り響く。ブザーが鳴り響くと同時に、劇場内からは観客の拍手による波が流れ始めた。香澄たちも同じように拍手をして、劇場内から拍手の波が消えると同時に舞台が上演される。舞台幕が上がる前にアナウンスが始まり、軽く話の内容について説明が入る。


 なお今日の演目の『オペラ座の怪人』では、登場人物が二〇名ほどいる。だがマーガレットが所属する大学サークルのメンバーは、全部で一〇名ほどなので、残りの一〇名分の配役については、サークル外からのキャスト、つまりエキストラとなる。

 そのため主役やそれに近い役どころについては、マーガレットらが演じることになる。物語を引き立て役となる配役は、演劇サークル以外のメンバーで構成されている。

『初めておおやけの場で演じる舞台だけど……大丈夫かしら、メグは?』

マーガレットの初舞台に対し、喜びと不安半々という気持ちを秘めている香澄だった。


 マーガレットの話通り、基本的に原作に沿った形で舞台は上演される。しかしその一方で、原作とは大きく異なっている点もある。

 舞台の終盤にさしかかるシーンの中に、ファントムがクリスティーヌを拉致監禁するシーンがある。『オペラ座の怪人』でも重要なシーンの一つで、クリスティーヌがファントムにキスをして愛するラウルを守るという名シーン。


 感動的な場面でもこの流れの後に、原作にはなかったあるシーンが追加されている。ファントムの手から解放されたクリスティーヌとラウルは、その後オペラ座を脱出する。そして自分たちが安全だと確信した時に、何を思ったのかクリスティーヌがある歌を歌う。

 これは原作にはないシーンとなっており、クリスマス公演ということで急遽追加された歌。タイトルは『仮面ペルソナ』で、物語終盤においてクリスティーナが怪人ファントムに対する慈愛をテーマに作詞・作曲されたものだ。

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