終幕 闇へと帰る

 目的を果たしたバルトは帰ろうとしていた。『AI』はずっと気になっていたことを尋ねることにした。


「何故、復讐をすることを選んだのですか?この世界はあなたが理想とする世界をつくりあげることもできます。あなたが愛していたロビン=ガルシアと一緒に過ごすという道も選ぶことができたはずです」


 そう聞かれ、バルトは少し考えたあと退屈そうに答えた。


「お前は俺の考えたことを読むことができるのにつまらないことを聞いてくるな?俺はもうあいつと過ごすことはできないんだ。顔向けができないからな」


 勇者として、一人の人間としての道すらも外れてしまった男に対してその質問は酷であったか。と『AI』が思っていると付け足すようにバルトはこう言った。


「ああ、そうだな忘れていた。あの腐れ魔術師はロビンを封印具と読んでいた。そして俺は今では魔王だ。ならばまた世界を滅ぼそうとしている魔王の前に現れてくれるかもしれないだろう?復讐に走った俺を叩きに来てくれるかもしれない。このバカバルトって、そんな密かな楽しみまで失いたくなかったんだ」


 あり得ないことであった。きっと彼も理解はしているのだろう。ただ怒りに身を任せてしまったことによって掴めたものと永遠の別れとなってしまったことを……。

 仮に彼の言っていることが実現しても本人とは限らない、人間の彼の死後ということもあり得ることだ。そのこともきっと理解しているのだろう……。


「じゃあな、『AI』。短い間だがあいつの姿を見られてよかった。多分二度と会うことはないだろう」


 そう別れを告げて見せた背中は哀しく感じるものであった。そしてそのまま暗闇へと消えていった。


 役目を終えた『AI』もまた次の英雄を探してその場から消えた。



 あたりはただ暗闇だけが広がっていた。

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元勇者の武器は己自身 熊野 睦月 @Kumayan

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