ミステリという特殊ジャンル②

 さて。


 ミステリの中でも本格とかに代表される、トリック主体の一群を目指すにはちょっとした素質が必要な気がしています。向き不向き、というかですかね。それは、トリックは基本使い捨てになるから、に尽きます。(だから何か思いついても、こういうWebとかでは出すな、と言うわけですね、勿体ないから。)


 まー、慣れてきたら先人のトリックを応用して、ほぼ無限にひねり出せるようになりますんで、要するに素質ってのはズバリで「応用力」のことです。

 先人の作品なんてそれこそ星の数ほど生み出されてますんで、次々と読んでいけばそこで知ったトリックはすべて糧になります。変化球にして打ち出すだけですし。


 けれど、だからこそ、沢山のインプットが必要です。それも推理小説での、ちゃんと整形された方程式そのものを脳内に入れていかないと、タネの状態をいくつ入れても役に立たないというのが私のここ数年で得た実感ですね。


 例えば、棘のまとめでこんな記事を読みました。実際のVRゲーム機器で、首を切るシミュレーションが行われたらしいのですが、人によっては現実の方でもかなり大きな違和感が残った、という話です。

 これ、すぐにピンとくるのは「マトリックス」です。そんで、使えるトリックになるという匂いがぷんぷんします。そもそも現実のVR機材はオイシイ小道具ですけども、もっと現実的な未来の危険予知としてのトリックまで作り出せそうだと思いませんか。


 しかし、単にVR体験が生身でも影響を残すというタネを仕込んだとしても、これをどう展開させたらトリックとして成立するかという、方程式での記憶に変換しておかないと、ただのデッドリンクでしかありません。


 応用ですから、定番中の定番トリックあたりになってくるともうすでに使われているという可能性もあります。トリックは早い者勝ちの上に、二番煎じが嫌われる傾向にあるジャンルですから、最近だとちょっとやそっとのヒネりを仕込んだ程度では使い物にならないということもあります。


 また、ライト層にあたる読者の傾向も変化していまして、普段あまり推理小説を読まないという層は、もっとガッツリと読んでいる層の評判をもって判断するという他人任せが顕著になった影響が出ています。

 つまり、トリックでは恐ろしく辛口のヘビー層の評価をもってしか、ライト層の読者を動員できないという状況が起きています。


 普段読まない層はガッツリ層の認めた作品にしか食いつかないという現象です。これは別に推理小説に限った話ではなく、あらゆる娯楽においても起きています。


 しかしながら、ここにちょっとしたネジレ現象が起きてくるのですね。ガッツリ層が認めた作品といえど、あまりに専門に寄っている、あるいは複雑すぎて初心者には理解に及ばない、というケースでは不発に終わるということです。


 例えば、最近ニュースで見た人も多いと思いますが、ビットコインの不正流出事件、あれなんか推理小説のトリックそのものなんですよ、実は。ところが、多くの人には複雑すぎるんです。その仕組みこそがトリックになってますが、それを解説されてもつまらないだけと思います。

 これとほぼ同じことが、例えば医療トリックだのSFトリックだの司法トリックだのでは起きているんですね、それを読み込んできた手練れの読者にしかもはや付いていけないトリックと化しているわけです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る