ミステリという特殊ジャンル③

 ミステリというと、広義の意味ではトリックが成立してなくても許されます。それは、SFが広義では「少し不思議」でも通用するのと同じ意味合いです。なので、もっと厳密にトリック寄りのジャンルとして「本格推理」とか「探偵モノ」「法廷モノ」「密室モノ」という具合に細分化されていきます。SFでも「ハードSF」とか「サイエンスフィクション」と銘打たれると少し不思議とかスペースファンタジーが弾かれるのと同じ意味合いとなります。


 さて、トリックには二種類の発生分類が出来そうです。一つは、先に述べた「先達のトリックの応用編」で、もう一つは「完全に新規のトリック」です。


 読者を舐めちゃいけないのは、いくら舞台や小道具を変えたところで、トリックそのものを見て新規か応用かを見抜くくらいは造作も無い、という点ですね。


 そして、応用の場合は新規に比べて評価が低くなる傾向が強いという点です。この応用が舞台や小道具を変えただけだと、柔道でいう有効にすらならないかも知れません。新規トリックには一本の価値があり、応用では技あり程度の価値、なので応用の場合は複合にしていかねば総合では評価に結びつかないということも考えられます。

 そのくらい、トリックというものを取り巻く環境は厳しいように思います。


 柔道や、あるいはフィギュアスケートと同じくで、ポイント加算で価値が決まるジャンルと化しているのが昨今のミステリ界隈という気がします。それも、フィギュアや体操と同じく、天井知らずに技量を求められています。


 しかし体操などのように、どんどん難易度が高くなればよい、とはならないのが困ったところです。難易度が高い=複雑化となれば、多くの読者はふるい落とされるわけです。苦肉の策として発達してきたのが、他ジャンルとの融合です。


 トリックそのものが優れているのは勿論のこと、そこへ例えばホラー要素を足したならばそのホラー要素もホラーとして優秀でなければならない、文学を足すなら文学としても優れていなければ価値に繋がらない、ということです。


 しかも、ミステリの中核はあくまで「トリック」です。まずトリックが一定以上のレベルであることを求められ、いわば合格ラインが作られて、そこを超えたところからがスタートだという状態にあると思われます。


 これは、ライト層読者がヘビー層読者に評価を丸投げ状態にした弊害というか、まずヘビー層読者に認められる必要が出てきてしまったせい、と思えます。


 ヘビー層は言うまでもなく、トリックでは誤魔化しが効きません。この層が、トリックにおいてある程度妥協してくれるレベルのものを用意しなければ、まず評価のスタートに立てない状況にあると思われるのです。

 トリックの評価が確立した上に、プラスアルファの価値がある、そうであって初めて彼らは「凄い!」と言ってくれる、そう感じます。そしてその評価を聞いて初めてライト層が手に取り、この評価を担保にして自己での採点を行う、そういうシステムに変化しているように思うのです。


 最近は、新本格までその流れに移っているようにも思えます。新本格に相応しいトリックのレベルを保ちつつ、他ジャンルの価値も備えて初めて、賛美されるという具合のハードルの上がりよう……




 こわいですね。

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