事務文章とは?

 情緒のない事務文章……はい、このエッセイのコレも実はそうです。余計な修飾語だの微細なニュアンスを書きこむだのの、描写はしてませんでしょ、そういうのを事務文章と私は呼んどります。先に挙げたストレート文とか、台詞とかも同じ特徴。

 喋り言葉ってのは要件を伝えるのが主目的なので、具体性重視なのです。だから、台詞ってのも情緒を入れすぎると非常に気障な印象になります。抽象的になりにくいという利点がこの文体にはあります。抽象的ってのは解かりにくいって事ですから、読みやすいわけです。味気ない、てのは一面なんですね。


 文体それぞれで長短ありますってのは繰り返して述べておきたいトコロです。


 情緒たっぷりに語って、それでなんか煙に巻かれた感じになって、何を書いてあるのかさっぱり?なんて事になっては本末転倒。アクション主体の冒険活劇でチャンチャンバラバラやってる最中の描写を情緒たっぷり感性豊かに書かれたって拍子抜けでしょうし、それとは真逆の色濃い人間ドラマをまるでお昼の臨時ニュースみたいな味気ない調子で書かれたって興醒めですわ、という。


 この事務文章は、先の足し算引き算の話で出した、引き算系の文体なので、シンプルで書き手も読み手も混乱しにくく、少ない文章量での伝達が可能ですが、その分、伝達したい情報自体に興味のない読者にとっては、非常につまんない文書になるってことです。現物をそのままポンと出す感じなんで。


 この文体は本当に内容に左右されてしまい、文体の効果ってのはシンプルイズベストってトコだけです。知りたいと思った情報を、ささっと出せるのが利点。読者は内容こそが目的なので、文章自体の巧拙なんぞまったく気にしません。


 実験をしたのですよ、「文香さんは意識高い系わなび女子」では、どんどん地の文が杜撰に、台詞が冗長になっていきますが、ほとんど無関係に読まれてました。


 なので、この文体で書く場合にだけは、最初に「何が目的の物語であるかを告知する」ことが大事になるわけです。タイトルで何をする話かすぐ解かるようにするとか、テンプレひと工夫な話に収めるとか。

 描写を使い、情緒ある文章で書こうと思っている作者さんは、なのでこっちとは完全に線を引いてしまってほしいのです。タイトル付けからロジックが違うので。


 ここをごっちゃにすると、どっちつかずの中途半端で両方の読者層を遠ざけます。


 さて、内容こそに用がある読者さんは事務文章だろうが何だろうが、内容をサクサク出してくれるのなら嬉しいでしょう。そうすると、たらたら描写されたら邪魔だなぁ、とか思うかも知れない。

 文章をじっくり読む、描写の質までこだわって読むという読者さんとなると、内容だけでなく、文章レベルが問題視されるということになります。だから、よく言われる標語の「一行、三行、三十行、三十頁」というのにしても、内容目的の読者向けと文章目的の読者向けでは意味も対策も違ってくるわけです。


 前者はとにかく内容、イベント自体のインパクトが大事でしょう。「おっ、」と思わせるのが大事とかいうのは、前者だけの話。後者はまず最初の一文そのもののインパクトです。中身じゃないんです。まず最初の一文は凝ったものを用意する、というと後者の話なんです。


 気が付けばそこは異世界なのは、前者。

 トンネルを抜けて雪国なのは、後者です。


 読者の興味を担保するに、前者は文章そのものの力を頼らずエピソードで行い、後者は文章の力を借りるのでエピソードは弱くてもいい、ということ。情景描写で始めたり、場面のインパクトなど気にせず書ける、というわけです。

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