キャラをベツモノに、個性を付ける⑥~マルチタスクの罠~

 えー、描写は標準的な一般文芸並みにすると決めたところで、もう一個問題が立ちはだかります。これ、描写を入れるとなると、ラノベ読者のマルチタスクにどう対処するかというのがねぇ、これが難しいわ。


 Web小説の、描写が少ない作品には少ないなりの利点があります。読者はとにかく「はよ知りたい」わけです、枝葉を取っ払った情報の核心部分を知りたい。特に、なんも解からん最初のうちは。つまり、冒頭の流れでチンタラと風景描写なんぞやられた日には殺意が沸く、と。(笑


 彼らにとって最良なのは、世界観と風景と人物紹介の箇条書きが最初にある事でしょうな、あるいはダイジェストとか、前回までのあらすじ状態で、物語の導入部が語られて、いきなり核心ストーリーが始まるのがモアベターかと。

 これも、別に媒体次第ではよくある仕切りっすわ。舞台だ、舞台。本題のシーンをやる為に前フリは最小限に抑える手法はよくあります。映画でもある。ことさら異常なわけではないのですね。小説としてはポピュラーとは言えませんが。


 舞台とか映画では、このダイジェスト形式を「いかにカッコ良さげに見せるか」の工夫が凝らされています。これをやるのがベター。ナレーションとかで仰々しく読み上げたりの、アレです、アレ。マジに箇条書きなんかしたら雰囲気ぶち壊しです。

(読者の根底には、「小説を読んでいる気分を味わいたい」はあるのでね、小説らしさは大事です。)


 で、描写が少ない書き方を選んでいると、冒頭のダイジェストから本題移行ってのをかなりスムーズに行えます。描写みっちりだと、ダイジェストから急に空気が変わったりしてかなりの違和感ですからね。


 小説って、導入部が一番難しいと言われていて、世界観をきっちり理解してもらうのにはほぼ出てくるもの全て解説付けるって勢いなんですな。で、解説するべき箇所が冒頭に集中するんで、それで難しいと言われますが、描写を薄くしておけば一度に沢山の解説を、読者に処理してもらいやすいわけです。


 マルチタスクな読者ですから、参照が山ほどあっても苦にならない。ほぼ単語で進められて、モノに対する情報がなくても参照で引っ張ってきて終わりなわけです。

 これは早いよ。(笑


 従来の小説だと、単語が羅列状態にならないよう、モノの情報を羅列したり読者を置いてけぼりにしないためにと、描写でモノ情報を提示しつつ、一個一個ゆっくりと出していくわけです。だからそもそもマルチタスク対応じゃない。


 描写は、その描写そのものをまず紐解いてもらう作業がありますんで。基本、一個ずつ、の作業なんですわ。従来の描写での書き方は。


 それに対して、現状の、参照過多の書き方ってのは一度に複数の情報処理が出来る書き方なんですな。だから描写をいくら薄くしても通じるし、描写文も滅茶苦茶でもいいんですよ、もともとがそこから情報を引き出してないから。雰囲気の演出だけだからね。


 描写の濃淡は共通ですし、描写自体は読んでもらえるんですが、実際はまるで違う運用になっているので、一般と同じ冒頭展開をしたらアカンのですわね。

 描写が嫌いなんじゃなくて、チンタラした冒頭の展開こそが嫌いなのだ、ということです。マルチタスクな処理能力ナメんな、てなところ。


 けど、これ、個人の能力差があるんでねぇ。やっぱ平均値を探るか、従来のパターン踏襲するかで考えたら……


 面倒だから従来通りでいきますわ。(笑




追記:

 従来の読書におけるマルチタスクは、描写とか文章そのものはゆっくり読んでもらい、文の裏側とか空白の意味を紐解くのに使われるものでした。描写そのものとか単語の選定まで絡めて、意図を考えて、じっくりと解析するのが一般的な読み方です。


 平坦な文章だと、裏の意味などないわけで、解析しながら読むという必要がないとされるわけです。意味深な文章で綴られた作品は脳のお味噌が非常に疲れますし、あれこれの思考が止まらなくなりますが、平坦な文章はそういう裏読みをする余地はほとんどないので。説明的とかの文章ですけどね。文意がストレートに出されるので、読む負担はほとんどないです。で、全体とかある程度を読み込んで、全体で意図を測るようになっているのがラノベやWeb小説の構造ですね。


 読者のマルチタスクが何処に発揮されるかの差、でしょうか。


 あと、どちらの文体で書かれているか、でしょう。

 深読み推奨文なのか、ストレートな文なのか。


 もちろん私はアレコレを裏側にぎっちり詰め込む所存。(笑

(だからさ、トルストイに憬れてるんだよ~、ああいうのやりたいの。)

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