冒頭・戦闘描写三種類の解説④

 <チョーシリアスかシリアルな戦闘描写>


 勇者の振り下ろした剣は躊躇なく、ゴブリンの頭蓋骨を打ち砕いた。どす黒い血が飛び散り、周囲の岩や地面に触れた途端に恐ろしい勢いで腐食を始める。

 ただのゴブリンではない、植物系のモンスターに寄生された新種のアンデッドだ。腐りかけた小さな体躯の背中に、宿主と同じくらいの大きさをした毒々しい赤い花が咲き、棘付きの触手をうねうねと振り回している。

 特殊な魔法のコーティングを施した剣ですら危ない。これに振り下ろせば白い煙をたなびかせて、同じように腐食する。早い目に片付けねばこちらの装備が保たない。

 生きたまま寄生され、思考を無くしたアンデッドゴブリンは、生前の敏捷さで勇者に襲い掛かる。限界を無視した膂力で巨大な戦斧を手にし、これを振り回すたびに筋肉の繊維がブチブチと引き千切れる音がした。向こうも短期決戦か。

 狙いを定めきらないうちに、アンデッドの第二撃が襲い来た。咄嗟に首を跳ね飛ばしたが、弱点ではなかった。戦斧の超重量が勇者の頭上に影を落とす。機械的なゴブリンの動きは澱むことなく殺戮へ向かう。間一髪で避けたと思った鋼鉄の刃は、そのまま地面を抉り取りながら、地に伏せた勇者にぴたりと追い縋った。



<解説>

 これも、このままでは到底、冒頭部に置ける描写ではありません。戦闘から開始する冒頭というつもりで書いたわけではないんで。

 書き直してみます。


<Re;チョーシリアスかシリアルな戦闘描写>


 目の前の敵は歪な姿をしていた。腐りかけた小さな体躯の背中に、宿主と同じくらいの大きさをした毒々しい赤い花が咲いている。肉厚のまだら模様のある花弁、その横から生えた棘のある触腕がまるで別個の生き物のようだった。

 植物系のモンスターに寄生されたゴブリンは、もはや新種のアンデッドと化している。まだ生きているのか、それとももはや死んでいるのか、腐敗した眼球は濁っていた。戦闘は不可避。一行は冷静に展開し、敵を取り囲む。

 運命は皮肉だ、勇者と呼ばれる以前に会いまみえた敵が、再び、更なる強敵となって舞い戻ってきた。この世界に迷い込んで最初に出会ったモンスターが、どこまでも彼の行く手には立ち塞がるらしい。

 ふらふらと足元すらおぼつかない屍を前に、勇者は落ち着いた所作で剣を抜いた。


 勇者の振り下ろした剣は躊躇なく、ゴブリンの頭蓋骨を打ち砕いた。どす黒い血が飛び散り、周囲の岩や地面に触れた途端に白く煙を上げた。恐ろしい勢いで溶解している。大気に触れると強酸と化す体液らしい。

 特殊な魔法のコーティングを施した剣ですら危うい。白刃からは同様の白い煙がたなびく。早いうちに片付けねばこちらの装備がもたない。

 思考を無くしたアンデッドゴブリンは、屍とは思えない敏捷さで勇者に襲い掛かる。やはりまだ生かされているのか。

 は、限界を無視した膂力で巨大な戦斧を手にし、これを振り回すたびに筋肉の繊維がブチブチと引き千切れる音をさせた。使い捨ての道具扱いに怒りが沸く。赤い花の色は贄から吸い上げた血潮だ。

 本体か、傀儡か、狙いを定めきらぬうちに、アンデッドの第二撃が襲い来た。咄嗟に首を刎ねたが、弱点ではなかった。戦斧の影が勇者の頭上に迫る。機械のような正確さで、首が消えてもゴブリンの動きは怯むことすらない。

 間一髪で避けたはずの鋼鉄の刃は、そのまま地面を抉り取りながら、地に伏せた勇者にぴたりと追い縋った。



 この後、背中のお花がすっぽ抜けてフライングでびゅーんて襲い掛かってきます。


<解説>

 途中で出てくる戦闘描写ではなく、しょっぱの冒頭で出しても問題ないように書いたのでさらに文量が増えました。廉価品ザコでないオリジナルモンスターなんで、簡潔には書けませんのです、多少の容姿の説明が不可欠。

 無理に簡潔に書くと、またまたスベったギャグの時みたいな事になるんで、いっそオリジナル止めて廉価品ザコにする方がマシって事になるでしょう。


 最初の、冒頭不可のヤツは「敵の容姿」と「特徴抜き出し」と「戦術」と「対処リスク」てな感じの、モンスター情報だけに絞って描写してましたが、冒頭にも使えるバージョンの方は、さらに「読者が興味を持つだろう空気」も付けました。

 なにやら因縁ありげな描写をチラホラと突っ込んで、それをもって冒頭に耐えるように改稿してあります。元のヤツだと興味を引かないと思うので。


 ところで、魔改造で挙げた私の文章は、総じて、読者によっては読んでいてザワつくというか、イラつく文章だったのではないかと思います。この程度は短いものなので感じないかもですが、全編こういう密度で書かれていたら敬遠するでしょう。


 情報量が詰め込まれた文章というのは、読者の自由が利かない文章です。


 こういう画で、こういう設定で、と細かく指示されているようなものですから、それは当然そう思う人が居ても不思議じゃないです。脳みそがその指示に疲れる。

 昔からの小説では、しかしこれがスタンダードです。これに慣れていれば、別に気にならないし、違う仕様になっていたら逆に馴染まないのですね。


 読み慣れているかいないか、その差もあるわけです。


 翻って、引用からの幾つかの魔改造文章ですが、細かな指示が必要でしょうか。引用の描写文にあった情報を今一度整理してみましょう。


 敵はゴブリンです。ファンタジーでは今さら説明の必要もないお馴染みのザコモンスター。非常にポピュラーです。戦闘シーンのキャラたちの動作そのものも、本当によくある動きばかり。特筆すべき情報はないんです。(まぁ、だから私も魔改造②はちょっとズボラかまして手ぇ抜いてますが)


 作者のハイロック氏自身が仰ってますが、こんなのは一行で済む内容でしかないわけで、けれど、それだからこそ脳みそには負担が少ないというカラクリです。だから、情報量が「ゴブリンを倒した」だけでも通じたんです。

 これは、文学文芸でお馴染みの描写テイストに似せたという事です。実はライトな文章なんですね、これ。重い文体を読んでいる気分を味わえるテクニックなんです。



 それが、極端な話で、「ラノベと文学文芸の違い」です。文章構造の違い。文学文芸では端からんですわ。

 てなわけで、ハイロック氏に謝辞を。勝手にお借りしました、すんません。

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