【例題作品】お兄ちゃん、もっとマシなヒントください。【ラノベ】

 後方で爆発音が響いた。

 やばい、連鎖で爆発したんだ、爆弾には爆弾をぶつけろってのは、もはやセオリーになってるから。


 なんの話か解からないでしょうか。

 これは戦争ゲームでのチーム戦に関わる事柄で、わたしはギルドの突撃要員ってわけで、つまり、爆弾抱えて敵の守る砦を吹っ飛ばしに行くところってことですね。


 後方で起きた派手な爆音に振り返ると、自軍の爆弾が次々と連鎖爆発を起こしている光景が目に飛び込んで。それも一瞬で、わたしはすぐに前方を見据え、さらに走るスピードを上げた。

 爆発すれば痛い。けど、HP高いから死ぬほどのモンじゃないし。少しの間、ピヨって、目が回る程度のもので、体力が半減する程度。回復薬をガブ飲みしてから、敵陣に特攻するのがこちらの作戦だった。

 女の子が無茶苦茶するって?

 もちろん、好きでやってるわけじゃない。お兄ちゃんにヒントを貰いながらプレイしてたら、いつの間にやら特攻隊やる羽目に陥ってた。お兄ちゃん、恨む。


「たー!! 吹っ飛べー!!」

 爆弾のカウントは残り数秒、わたしは敵の陣地に到達して敵のギルド員たちの攻撃を掻い潜りつつ、門戸へと迫る。タッチダウーン!

 同時に大爆発。ぐっ、と胸が潰れるほどの衝撃が全身を駆け抜け、視界が真っ白になり、頭がくわんくわんと揺れる。他人から見れば、文字通りわたしの頭上には星と小鳥がくるくる回っているんだろう。

 乱戦になっていた中から、味方の誰かがわたしの背中を蹴っ飛ばして硬直を解いてくれた。


 このゲームはものすごく乱暴。バーチャルリアリティを売りにしているネトゲの中でも、かなり滅茶苦茶な部類だと思う。魔法に銃器、剣に弓。爆弾抱えて敵陣に特攻かけるMMOなんて、他では聞いたこともない。

 実際には単なる偶然から生まれた戦法で、もともとはこういう手段に使うために実装された技能じゃなかったんだけど、誰かがこういう使い方を考え付いてしまってからは、もっぱら攻城戦での主戦力といえる存在になった。どうせイタチゴッコだからと、運営ももうこの手の事柄に対策はしない。

 城門の耐久値がゼロに近付いていく。門を突破したら、敵の本陣を潰して、そしたらわたしたちの勝ち。


 ふらつく足でなんとか自軍の陣地へ戻る。回復するそばから斬られて体力がマジヤバい。

 体力を回復し、再びわたしは爆弾を抱えた。

「え!? また行くのか!?」

 素っ頓狂な声をあげて、同じチームの回復役さんが叫ぶ。可愛いエルフさんだけど、中は男だったり。

「あったりまえ!!」

 この日の為に体力上げまくったんだもん、活躍の場よ!

 基地外だな、と呟いた一言は唇の動きで読めた。

 知らないっ。戦争は狂気。お祭りですよ。

「行ってやるぜ、ひゃっはーだ!」

 お兄ちゃんお得意の決め台詞を貰っちゃう。実は、チームの皆さんには、お兄ちゃんの身代わりに妹が中の人やってるのはナイショだったり。

 最近リア充やってるお兄ちゃんは、デートとバイトに忙しいんだって。だから、廃スペックのお兄ちゃんのキャラをわたしが借りちゃっているのだ。

「おい! 敵陣、やべぇのが出てきたぞ!! 姫香だ!」

 え。わたしは慌てて首を巡らせ、遠く敵陣に現れたという白とピンクの色彩で統一した防具を纏うという女キャラを探した。帽子からワンピースまで、フリルがいっぱいの服を着て背中に大きなウサギのぬいぐるみを背負っているお子様キャラ、それがあのプレイヤーのトレードマークらしいから。

 わー、お兄ちゃんに聞いたまんまだー。フリルぴらぴらー。


 不思議の国のアリスみたいな少女キャラが派手に暴れてる。

 彼女は刀剣の類を持たない。徹底して上げまくった全体魔法と、特殊スキルが彼女の武器だそう。

 投げキッスを飛ばすと、四方八方にハート型のしゃぼんのようなものが乱れ飛んで、それに当たった者は身体の自由を奪われて、彼女の言いなりになってしまう。

 つまり、『魅了』のスキルがマスターレベルという化け物。普通は耐性レベルというものがあって、そう簡単には掛からないものだけど、彼女は魔力とか色々と、関連ステータスを極限まで上げてるから、逆らうほうが難しい状態だったりする。らしい。

 よく解かんない。お兄ちゃんは『要注意人物、触るな危険!』とか言ってた。

 百発百中、あのハートに当たるとメロメロ状態になる。ロリ少女の中身はやっぱり男だったりするんだそうだけど。

「ほ~、ほほほほ! 跪け、ブタども!! そして盛大に散りやがれ!!」

 文字通り跪かせたわたしの陣営の人たちを、極大魔法一発でふっ飛ばした。

 そーか、そのために周囲に集めたんだ。コンチクショウ。

 お兄ちゃんは触るなって言ってたけど、やっぱり悔しい。なんとか出来ないのかな。


 あっ、そうこう言ってるうちにこっち陣営のスキル廃人がお出ましになった。

 青白い顔をしたひょろっと背の高い痩せぎすの男キャラ。この人はヴァンパイアだ。アンデッドは魅了無効だから、彼女が出て来てもあの人が迎え撃つって、お兄ちゃんが言ってた人。

「オイタが過ぎるようですねぇ……、ちょっとお仕置きしてあげましょう。」

 言うなり、ふらふらとロリ少女へ向かって歩き出す。

 わー、成り切ってるー。迫力あるなぁ。

 自分のやってるゲームキャラに成り切ってしまう事をロールプレイというそうです。ごっこ遊び?とか聞いたら、お兄ちゃんに『ロープレは遊びじゃねぇんだよ、』とか言って怖い顔して睨まれました。

 あ、メール来た。

『姫香対策:姫香向く⇒ころりん⇒姫香向く⇒ころりん 右回り5m』

 お兄ちゃーん、意味が解かんないよー……。

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