バカ野郎!こんな遅くに小説読んでるんじゃねぇ!

ちびまるフォイ

どうしてあの小説が乱立しているのか

カクヨム運営からとある依頼がやってきた。


「すみませんが、あなたに睡眠小説を書いてもらいたいんです」


「睡眠小説? なんで?」


「最近、カクヨムは深夜の利用が増えていて

 夜中にスマホを操作することで眠れなくなることが増えてるんです」


「わかりました、やってみる」


睡眠小説とはどういったものなのかよくわからないが

自分なりに調べて小説を書いてみることにした。


―――――――――――――――――――

俺はカタラント大陸伝わりし呪法ラストソラトリアを発動した。


敵のオポチュニティをカタルシスしたことで

インタラクティブなイニシアチブを取ることに成功した。


「これがグローバルエンダーメントの力だ!」


マイルストーンを完了したことで次のタスクがインヴァイドした。

―――――――――――――――――――


ひとつの睡眠小説ができあがった。

さっそく読ませてみると、運営はしぶい顔になった。


「……ぜんっぜんわからない。

 鼻につく専門用語が多すぎて内容が入ってきません」


「ふふふ、それが狙いなのだよ。

 退屈な専門用語を多く入れることで眠くなって寝てしまう。

 これが本当の睡眠小説だ!!」


「……ダメです」


「ええええ!? なんで!?」


「じゃあ読んでくださいよ」


「……え、それはちょっと……」

「なぜですか?」


「つまんないので読みたくない」


「それ読者も同じですからね!?」


運営からの指摘で気づかされた。


確かに退屈な小説というのは眠たくなるのかもしれない。

けれど、それ以前に面白くなければ読むこともしない。

さっさとページを閉じて終わりだ。


「あ! わかった! ちょっと書いてくる!!」


「今度はお願いしますよ……」


再び次なる小説の執筆に乗り出した。


―――――――――――――――――――

ついに世界の命運を分ける戦いがはじまる。

敵を前にして剣を持つ手に汗がにじむ。


「ククク、我を倒しにきたというわりに緊張しているようだな」


「これは武者震いさ。あんたを倒せると思うと心がうずいてね」


「よい剣を持っているな」


「あんたを倒すために、サンドラ村の洞窟のドラゴンを倒してきた。

 魔法がきかないドラゴンを倒すために俺たちは自分たちを鍛え上げた。

 それがいま、あんたを倒す力の礎になっているのさ」


「ほぅ、どういうことだ」


「身体能力を鍛えた俺たちは各々にステータスの存在に気が付いた。

 筋力、敏捷、硬度……。敵を倒すには極端な方がいいのか

 それとも万能なステータスがいいのかを昼夜問わずに相談し合った」


「ククク、悩んだようだな」


「ああ、そして、みんなの役割を分担を決めることで

 ステータスの割り振りもそれに合わせたものにしたんだ」


「お前が我を倒す役回りというわけか?」


「いや、ちがう。俺のステータスはザコ敵排除を主にして――

―――――――――――――――――――


次なる睡眠小説ができたのでカクヨム運営は目を通した。

今度は自信作だ。


「どうだ! 今度は眠くなるはずだろう!

 ちっとも展開が先へ進まない小説だ!

 1回のバトルの前に3話使うくらいの想定だぞ!」


「……」


「おやおや? 効果てきめんかな?

 間延びした展開が多いから眠くなるだろう?」


「……ダメですね」


「えっ!? 今度もダメ!? どうして!?」


「いや、面白いんですよ。普通に。

 たしかに展開もダラダラしているんですがおもしろいんです。

 読みたくなければ高速スクロールできますし」


「し、しまったーー!!!」


WEB小説と紙小説での大きな違いは改行の差にある。

テンポを変えるためにバトルパートに入ると、





改行を多く使っている。




これにより、眠くさせるはずの間延びパートをすっとばし

熱くなる戦闘パートがどこなのかわかりやすくなってしまう。


改行を削ったところで、スピード感を重視するために

どうしても情景描写を抑えるバトルパートは、特定がされやすい。


「なんてことだ……これがネット全盛期のおそろしさ……!

 ユーザーは美味しい所だけを読んでしまうのか……」


「やっぱり睡眠小説なんて無理なんですかね」


「いいや! 俺はあきらめない!

 俺を応援してくれる読者のためにけっして!!」


「あなたフォロワーいないじゃないですか」


「うっせ! 心でつながってるんだよ! ソウルフレンド!!」


「ラッパーみたいなこと言い出した」


完全にあきらめムードの運営だったが最後のチャンスを与えてくれた。

俺は頭をフル回転させて、寝る間も惜しまずにちゃんと寝て書いた。


「できた!! これなら寝てくれるぞ!!」


「本当ですか? 大丈夫ですかね……」


信頼値ゼロだが運営は目を通した。

しっかり読んだ後、いつも通りの結論を出した。



「ダメです!! ぜんっぜんダメ!!」


「ははは、言うと思った」



「なに考えてるんですか!? えっちなシーンばかりで、

 裸の女の子のハーレムばっかりじゃないですか!

 内容らしい内容はなくて、セクシーシーンばかり!!」


「狙い通りです」


「こんなの読んだら夜に目が覚めちゃって眠れなくなりますよ!!」


「まあまあ。これが本当の睡眠小説ですよ。

 騙されたと思って投稿してみんさいな」


「ええ……? まあ、害はないからいいですけど……」


運営はどうせこの先も睡眠小説など書けないと見込んで、

このセクシー乱立小説を睡眠小説として公開した。


驚くことに、問題になっていた睡眠障害がぴたりと止まった。


深夜まで起きてスマホを開いてカクヨムを見ていた人も

睡眠小説を読むなりすぐに眠るようになった。


効果てきめんっぷりに運営は大喜び。


「本当にすごいです! いったいどうやったんですか!?

 特殊な文法を使ったとかですか!?

 実は文章に催眠術をまぎれこませていたとかですか!?」


「んなわけないでしょう」


睡眠小説にタネなどない。

あるのはただひとつ。

セクシー小説の末尾に注釈だけ書き加えていた。




※今眠るとこの小説が夢に出てきます。

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