第5話メリークリスマス!

 あのあと。名残惜しかったけど、時間に限界が来た。

 俺は家に帰らねばならなかった。

「ごめんね、ルーフィン。また、来るから。近いうちに」

「うん。今日は、本当にありがとうファミくん。じゃあ、今度はまた何かあったときに」

ルーフィンは名残惜しそうに言った。

「大晦日か新年明けたら来るよ。じゃあね、ちゃんと暖かくして風邪引かないようにしてね」

 俺はルーフィンと別れ、自宅への道を急ぐ。

 道中、偶然ピラクに会ったので、グルベルさんに任務完了を伝えてもらうように頼んだ。

 家の近くの森の中で、仮面とマントをはずしてペンダントに格納する。

 周囲に警戒しつつ家のそばまで行くと、まだ起きていた家族の面々が外に出て雪を眺めていた。

「(微妙な位置にいるなあ母さん)」

見つからないように物音は最小限にとどめなきゃ。

 こういうことをしていると、なんだか悪巧みをしているみたいでちょっとわくわくする。

 自分の部屋の窓をそっと開けて、中へ。

「ふぅぅううぅうぅ」

今回も何とか無事にうまくいったらしい。

「(でもまだ寝れないよなぁ)」

きっとみんなまだ雪を見ているに違いない。今僕が寝ちゃったら、雪は止んでしまう。だから、今は、まだ。

 あぁでも眠いや。ちょっと〈雪集ゆきあつめ〉は消費魔力が多いかも。

 「ん……」

外が明るい。

「んっ!?」

しまった。僕、いつの間に寝ててっ。

「魔力低下による寝落ち」

僕に声をかけたのはナタリだった。どうやらカルハも来ているらしい。

「うー、やっぱり寝落ちしてたかぁ……。しくじったなぁ」

体が重い。少しだが頭痛もしている。

「しまった、じゃなくて!」

ナタリは僕の部屋のドアを勢いよく閉める。

「あんたねえ、馬鹿なの? どんだけ広範囲にめっちゃむずい魔法使ってんの? 馬鹿なの?」

「馬鹿って2回も言わないでくださいナタリさん……」

それからいくつかの謝罪の言葉を並べ、何とか許してもらうことができた。

 「あれ? 今何時?」

僕が聞くと、ナタリは大きくため息をついて、

「9時30分よ。寝すぎ」

「え? うそだぁ、前にも魔力切れ起こしてぶっ倒れたことあるけどこんなに長く寝てなかったよ」

「それはそれでどうかしてると思うけど」

言葉がいちいち胸に刺さる。もうこれ以上言うのはやめてください。

 「ファミってほんとにすごいよな。なんか、執念が」

カルハが言った。え、なに執念って。

 僕が首をかしげていると、カルハとナタリが、

「外見てみなって」

と言った。窓から外を見る。

「!!?!?!?!?!」

真っ白だった。正確に言うと、真っ白になっていた。

「えっちょっこれってまさか」

「察したと思うけど、これ全部アンタが降らせた雪よ」

ナタリはきっぱり言った。念のため、

「え、まじっすか」

と聞いてみたけど、

「まじっす」

と真顔で返された。

 たくさん、というほどではないが、雪だるまを作ったりだとか、その程度には積もってしまっている。

「まあ、一晩中こんなん降らせてたら寝坊も仕方ないよな」

カルハが言ったが、僕にそんなことをした自覚はない。

 しかし外では大人も子供も楽しそうに遊んでいる。きっと中央広場では雪合戦とかをしているんじゃないだろうか。

 おそらく、町中の人たちが笑顔になるようなプレゼントが贈ることができた。すなわち、僕も自然に笑顔になるというわけで。

 「寝坊してごめん、ナタリ、カルハ。僕らも遊びに行こう、部屋の中にいるなんてもったいないよっ!」

「おうっ!」

「もちろんそのつもりだったわよ」



 聖なる夜に、不思議な現象が起きた。雲のない星空の中、積もるほどの雪が降ったのだ。その雪は粉のようにさらさらと、まるで空気のように軽かったという。

 その雪がヒーローの仕業であることは、ほとんどの猫たちが未だに知らない。




 「メリークリスマス! よいお年を!」




(「Xmas番外編!ファミネコヒーロー」完)

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Xmas番外編!ファミネコヒーロー 紅音 @animuy_fti

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