第4話町中に笑顔を

 「あぁ、それはね」

俺は、その答えを口にする。

「雪を降らせるんだ。星空を見ながら、ちらちらと雪が降ったらいいと思わないか?」

雲の無い晴天に浮かぶ星。そこに、雪が降ってホワイトクリスマスになったらどれだけ素敵だろう。想像しただけで、にやけてしまいそうだ。雲が無いのに雪が降るなんて、本来ありえない現象が、このクリスマスイブに起こったとしたら。みんなは、どんな顔をするのだろうか。

 雲も無いのに雪など降るはずがないと思うかもしれないが、俺にはそれができる。

 『星零』。俺は、星零花という五大星花のうちのひとつの力を持っている。星零花の魔力の属性は「氷」。雨雲を雪雲に変えてしまうことはたやすい。おそらく、雲を集めずに雪を降らせることだってできるはず。

 「星空に雪……素敵! 見に行きたいところだけど、ここから離れたくないから……」

ルーフィンは言う。彼女は自らの力が働いたこの土地から離れるのをいつも恐れている。年末年始の畑リセット時は自分の力を解除している状態にあるので、初詣とかはいけるんだが、ちょうどこの時期はだめらしい。

 いつも頼りにしている彼女のために、俺は魔力を使う。

「ほら、こんな感じだよ」

雪集ゆきあつめ〉。空気中の水蒸気をある程度まとまりにして、それを雪に変える。水蒸気は雪となることで重くなり、自由落下で落ちていく。雲は無いが雪が降っている。星空がはっきり見える。

「ありがとう、ファミくん」

ルーフィンが笑っている。これまで見たことないくらいはっきりと。せっかくのクリスマスイブだ。これくらい笑ってもらわないと。

 町中だけじゃない、ルーフィンにも笑顔を。

 身近なひとが笑顔になると、俺もうれしくなってくる。

 「じゃあ、俺は行くよ」

「行ってらっしゃい」

 グルベルさんに託されたプレゼントを町中の子供たちに配ってまわる。といっても誰にも見られてはいけない。ちょっと難しいけどもう外にはほとんど誰もいない。それと、確か毎年サンタクロースは律儀にポストにおいていっていたはずだ。ポストのそばに靴下の形をした袋が置いてある家もある。これから雪を降らせる予定だから、それも配慮しておかないと。

 それからどのくらい経っただろう、町中の子供たちにプレゼントを配り終わった。大人も寝ていたり寝ていなかったりの微妙な時間帯。

 「(そろそろ、降らせるか……)」

〈雪集〉。町の上空の水蒸気を雪に変える。急激に大量の魔力を使ったせいだろう、少し視界がぐらついたが、ここから離れる分には問題ない。

 そっとその場を離れる。おれが見られるわけにはいかないから。

 まだ起きていた大人たちが、雪に気づいて外に出てきているようだ。

「え? 雪?」

「え、でも雲なんて無いよ!」

ちょっとした騒ぎにはなるだろうとは思っていたが、まさかここまでになるとは思っていなかった。

「星と雪……素敵ね」

「ホワイトクリスマスだぁ……!」

町中の声は、俺に力をくれる。

 〈雪集〉の効果が切れないように細心の注意を払いつつ、ひとまずはルーフィンのところに向かう。

 「ただいま」

「おかえりなさい」

ルーフィンのいるところも、〈雪集〉の効果が持続するようにしていただろうか。ルーフィンはずっと外にいたらしい。鼻の先が少し赤くなってしまっている。

「ルーフィン、そろそろ小屋に戻ったら。風引いたらよくないよ」

マフラーしかつけていないルーフィンは手足の先がとても寒そうだ。

「ありがとう、でも大丈夫。もう少しだけだから。ファミくんも、もう少しだけ一緒にいて」

鼻先を赤くした彼女が小さく笑って言った。その笑顔はずるいと思う。

「うん。じゃあ少しだけ」

俺も帰らなくちゃいけない時間がある。だからあと少しだけ、ルーフィンと一緒にいよう。

 いつまでもこの時間が続けばいいなと願いながら。


(つづく)

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