第3話ジン・グルベル
家に帰って間もない午後8時30分。僕は自分の部屋でのんびりしていた。
さっきのクリスマスパーティーを思い起こしているとき、窓を鋭いもので叩く音がかすかに聞こえた。
「ピラク?」
ピラクというのは『天ノ鳥通信』を営む天ノ鳥という種類の鳥の名前で、僕の大切な仲間でもある。いつも情報収集や言伝を頼んだりしている。
窓を開けてやると冷たい冬の風と一緒に一羽の天ノ鳥が入ってきた。
「この時期はさすがに冷えますね」
やっぱりピラクだった。え、もしやこれって、
「何か事件でもあったの?」
僕が聞くと、ピラクは一瞬ためらうかのように沈黙して、
「事件ではないんですが、ファルカイルにご依頼が……」
「依頼? こんな時間に? 一体どんな依頼なの?」
「手紙を預かっています。相手が相手だったのでチラッと内容を見てしまったんですがこれはファミくんに頼んでいいのかどうか……」
ピラクが依頼内容をチラ見してしまうほどの相手なのか。一体どんな依頼なんだろうか。
「まあどんな依頼でも受けるけど」
僕が言うと、ピラクは納得していないような顔をしていたが、手紙を渡してくれた。
依頼主の名前は、『ジン・グルベル』。なんかクリスマスっぽい名前だな。内容を確認する。
『小さなヒーローファルカイルよ。きみに頼むのは野暮だとわかっているが、聞いてほしい。本来、ワシは今夜トナカイが引くそりに乗ってアヨリ町に住む子供たちにプレゼントを配ってまわる予定じゃった。しかし朝、支度をしていたときに怪我をしてしまっての、今夜は動けなくなってしまったのじゃ。しかし今夜でないと意味が無い。そこでお主に任せたいのじゃ。何とか今夜中に、おねがいできないだろうか』
ジン・グルベルはどうやらサンタクロースらしい。文面から察するにサンタクロースはたくさんいて、地域ごとに担当があるようだ。
「了解。この依頼、引き受けた」
ピラクにそう告げると、彼はやや困ったような顔をした。
「本当はファミくん自身が貰う立場なんですけどね」
「ファルカイルには関係ないよ。……そうだな、せっかく俺が代理でやるんだったら、子供たちだけじゃない、大人にも笑顔を届けるべきだろうな」
とはいえ何か物をあげるのは得策じゃない。そうじゃないなにか別の方法で……。
「(あぁ、あの手があったか)」
時間を確認する。お風呂にも入ったし今日は早く寝ると伝えてあるから問題ないはずだ。
ペンダントを取り出す。
「それじゃあピラク、行ってくるよ」
「はい。本来グルベルさんが運ぶはずだった荷物はルーフィンさんのところに置いてありますよ」
「ありがとう。助かった」
学生の僕をやめて、正義の
町にはもう子供たちはいない。大人たちもほとんどが家の中ですごしている。
ルーフィンがいるあの場所へ。
「待ってたよ」
俺がついてすぐ、彼女は言った。
「ねぇ。大人にも笑顔をって、どうするの?」
彼女は何でもお見通しである。しかし、この問いを聞く限りでは俺のやろうとしていることはわかっていないようだった。
「あぁ、それはね」
(つづく)
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