✒︎Prologue✒︎

 は遂にやって来た——。



 は静かに、ゆっくり、そして着実にアスファルトの地面を侵食して突き進んできた。


 とうとう来やがったっ! ——。



 平田は身体中にアドレナリンが充満していくのを自覚した。


 TwitterのTime-Lineが忙しく上から下に流れていく。

 悲鳴と絶望の想いが短い文章に詰め込まれていた——。


 ——<もう、ダメだっ! 撤収する! >

 ——<あぁ、全部っ、全部呑み込まれたっ! 逃げます>


 それは近くの巨大工業団地で働く日本人たちの悲痛の“呟き”だった。


 平田はタイ人従業員たちに野太い声音で号令をかけた



 ——急げっ!! 全部積み込めっ!!


 事は一刻を争った。

 逃げ遅れると、全てを失う。会社が倒産するのだ。


 迫るタイムリミット。

 振り返ると、は牙を剥き、全て呑み込まんとしていた————。


 この日から、平田敦夫以下、四十数名の三ヶ月にも及ぶ長い漂流の旅が始まった————。



 迫る水の脅威モンスターからの逃避の旅だった。

 

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