ドライサーディン

ハギワラシンジ

油付けの片口鰯は乾かない

今考えていることはなんですか?



それはたぶん、オイルサーディンのこと。ラトビア産の、おいしいやつ。あとは成城石井で買った、さくさくのポテチ。

僕はおそらくそう答える。



「暇なのね」

そうとも言う。

「なら、一緒に踊りませんか。どうせ、こんなところ、誰も来ないだろうし」



彼女はそういって、ソファに腰かけた足をぱたぱたさせる。僕は指を意味もなくぱっちんぱっちんさせる。



「僕は躍り方知らないよ。知っていても踊らない。シャイだから」

「じゃあ、なんならするの?」

彼女はそう言う。

僕はなにも言わない。



僕はフリーマーケットに持ち物を出品してる。家の全部とテレビと車。それで、今は売り物のソファに腰かけてる。

「なんならするの?」

彼女は言う。

僕はフリーマーケットの商品を手に取っていく。なんとなく。



「やめてったら」

僕は彼女の手をとる。

誰も見てないさ。

「見えるかもしれないわ」

構わないよ。

「それがしたいの?」

僕は手を手に取る。

そして、煙草に火を点ける。僕は煙草を吸ったことはなかった。でも吸ってみたくなった。誰かの手を取ったまま。



僕は彼女を部屋に連れ込んで、楽しくお話をした。ラトビア産のオイルサーディンのこと。イギリスのビスケットのこと。

それで、話が尽きて、彼女が言う。

「なんならする?」

「もしかして、何もないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドライサーディン ハギワラシンジ @Haggyhash1048

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ