電話を待つ――受話器を耳に離さずに。ダイヤルもせず――ただ、電話を待っている。
ずっとずっと――僕だけを、彼女が待っている、愛しそうに――と憧れて。
ひたすら――重い沈黙のなかで、彼女が笑っている。嬉しがる、白い歯を見せる――僕のことを見て。やがて、彼女の瞳の中に、僕が映る――、ということを夢に見る。――朝、彼女の手を握りしめる、夕方の遊園地、僕たちだけ、足を止めている、そして、彼女を抱き寄せる――沈黙が回復する。無機質な信号音だけが――僕の耳に聴こえる。ダイヤルを回さず、受話器を置く。愛してる――ということばは殺される、跡形もなく――冷淡な、彼女の瞳によって。あの薄い皮膜に覆われた、氷によって。