第7話 王都・裏


勢いを失うこともなく女の子は刃物をこちらに向けながら走って来ている。

突然の出来事で体が動かない。


「下位民衆をゴミみたいに扱いやがって!」


どうやら俺たちを上位民衆と勘違いしているようだ。

今のあの子に俺たちは上位民衆じゃないって言っても絶対理解してくれない。

コトネは《コネクト》の準備をしていて、アートは拳を作って構えていた。

女の子との距離はざっと考えて30mぐらい。

後数秒でこちらの元に着いてしまう距離だ。

どうにかしたいのだが今の自分では何もできない。そもそも刃物を持った相手と戦ったことがない。



脳裏にその言葉が焼きついた。

汗は滝のように出てきて、呼吸は荒くなり、手足は震えが止まらない。

ただただ恐怖で体が動かない。

その時だった。

こちらに向かってきた女の子の動きがさっきより格段に遅くなっていた。

まるでハイスピードカメラで追っているような映像だ。いや、ハイスピードカメラよりもスローかもしれない。


「どうなってるんだこれ? 誰かわかるか?」


俺が質問しても誰も答えてくれなかった。

アートの方を向くとアートの動きも遅くなっていた。もはや動いているのかわからない。

もしかしてコトネも動きが? と思いコトネの方を確認したらコトネも動いてなかった。

どうなっているのか分からないが恐怖がいつのまにか無くなっていた。

なぜか自分の手を見ながら歩いていた。

そして女の子の後ろに回った。女の子はこちらが後ろにいる事には全く気づいていないのかそのまま走っていた。

もう走っているかどうか分からないが。

ちょっとしたイタズラ心で軽く女の子を殴った。殴ったところでなんの変化もないが。


「う″ぐっ!!」


女の子を殴った後、胸と頭に激痛が走った。そのせいか地面に倒れ込んでしまった。

さっきまで普通に立っていられたが今は体を起こすもの無理な状況だ。

苦しい中まわりを見た。


「キャァァァァァァァァァァァァ!!」


さっき軽く殴った女の子がとんでもない速さで壁に飛ばされていた。壁は女の子がぶつかったせいで粉々に砕けてしまった。

それと同時に胸と頭の激痛が収まった。


「う″…… はあ、はあ、はあ……」


寝返りをし、楽な体制をとった。


「何が起こったんだ? 動きが見えなかった……」

「魔力を、感じられ、なかった。となると、魔法は、使ってない」


今のが魔法じゃない。さっきの話を聞いて入れば納得できる。

じゃあ今の動きはなんなんだ?俺が高速で動いているのか、それとも周りの動きが俺除いてちょうおそくなっているのか。

それに体力消費が以上に激しい。あの状態になって1分も経ってないのに胸と頭に激痛が走った。今も立ち上がるのは無理だ。


「この、野郎……! 」


瓦礫の中から女の子が出てきた。頭、腕、膝から血を出している。それでも女の子は俺とは違って立っている。

やばい。

でもコトネとアートがいるからなんとか……なるか……




重たいまぶたをゆっくりとあげる。

俺は気を失っていたのか? 女の子が瓦礫の中から出てきた後の記憶が全くない。それに全く見知らぬ場所だ。壁を見るとさっきいた場所の壁に似ているので同じ収容所にいると思うが。

体をゆっくりと起こし頭をわしゃわしゃする。

周りを見ても誰いない。どこかに出かけてるのだろうか。

その場から立って移動する事にした。

その場から立てたのだがめまいが激しく壁に手がついてしまった。


「辛いな」


まだ頭がクラクラする。

壁に手を当てながら歩いて部屋の隅にあるドアまで行った。

ドアまで行ったところでまためまいが襲って来て今回はその場に倒れてしまった。

体が思うように動かない。絶対さっきの状態が原因だろう。筋肉痛に似た症状もなかなか酷い。

もうこれは移動できる状態ではない。

立つのはもう無理なので匍匐前進でさっき寝ていた場所まで移動する事に。

ほんの少し移動したが頭がクラクラする。

もうちょっと移動したいがもう体力の限界なのでもう移動できない。腕どころか指も動かない。だがなんとか喋れる



「くそったれ……。 こうなるならずっと寝とけば良かった……」


誰かが来るまでここで寝ていないといけないのか。

その前になんであいつらがいなくなってんだ? もしかして捕らえられたのか? だとしたら相当やばいぞ。 あいつらが捕まっていたら力もない俺はすぐやられてしまう。

もういいや。 どうせこんな体だからあっけなくやられんだろうな。


被害妄想はやめよう。運がプラスの方に向くかもしれない。


「結斗! 起きてるか!?」


とてつもない大声が自分の耳に響いた。

声を聞いてかなり焦っている様子だ。

勢いよくドアが開く。


「っておい大丈夫か!? それよりこれを見てくれ!」


アートは手に持っていた封筒から一枚の紙を取り出した。見る感じとても高価そうな紙だ。

俺はアートに一枚の紙を見せつけられた。


「強制王戦参加状? この参加状を受け取りしものは一年後の第29回王戦に参加すること。これは王直々の命令であり参加を拒否すると国家反逆罪又は、王反逆罪とみなし死罪とする。で、これを見せてなんなんだよ」

「お前一番最後のところを見たか?」

「最後? なっ!」


最後のおところをこの目で見た。そこにはこう書いてあった。

『強制参加人:境 結斗 』


もう言葉が出てこない。


「という事だ。こうなったら全て話す必要があるな」


回復魔法をかけられた。そのおかげで体を起こすことができた。


「まあさっき見た収容所。それがこの国の裏の一つ。ちなみにここの王都は国とほぼ同じだからな」

「なるほど」

「あとこの国は3種類の人間に別けられる。上位民衆、中位民衆、下位民衆。これだけじゃない、もっと裏がこの国にある」

「一気に話されても理解できないです」

「ん? そうか。まあ、今のを聞いて難なく理解したか」

「なんとなくだけど」


話を一旦切り上げてアートはその場から立ち上がった。


「本当に時間がない。早く修行に移るぞ」

「修行?」

「ああそうだ。早く来い!」


腕を掴まれてそのまま部屋の外に出された。


こいつの握力強すぎだろ……

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