第22話 幸福の湖
眠りの深さは長さに比例しない。
ぷかりと水底から浮上した俺の意識は、そのまま緩い眠気の中をたゆたう。
(……。……?)
まず、自分が何をしていたのか思い出せない。
今日はメールのチェックをしただろうか。新着の求人は? マトゥアハは?
マトゥアハ。
そうだ、マトゥアハ。
目を閉じたまま、意識だけが辺りの様子を探る。
聞こえるのは潮騒だけ。
ざざあ、と近づいて来る波が俺のすぐ傍でちゃぷりと音を立て、ざざあ、と引いていく。
俺が眠っていたのはほんの数分だった。
――――と、思う。
瞼越しに太陽の光も熱も感じない。
だから空はきっとまだ群青色なのだろう。
そう思いつつ、古びたブラインドのようにずるずると瞼を持ち上げた俺は小さく息を呑んだ。
空は、フラミンゴを思わせる鮮やかなピンクに染まっていた。
その中心では、光と熱を喪った柿色の太陽が人魂のように浮いている。
朝とも夕方ともつかない幻想的な光景。
仰臥した俺はそんな空を見下ろしている。
このまま果てしない空に落ちてしまいそう、なんてクサい歌詞のような言葉が脳裏を過ぎる。
ざざざ、と押し寄せる波の音を聞いている内にその気恥ずかしさも洗い流されていく。
母親に喩えられる海が俺の感情のすべてをありのまま受け入れてくれる。
次第に、ちくちくと背中を刺す貝殻が気になり始めた。
「う……」
酔い潰れた朝のようにぐるぐると前頭葉の中で何かが渦巻いている。
脳みそに感覚は無いと聞くが、だったらどうしてこんなにも気持ちいいのか。
――――気持ちいい?
そうだ、気持ちいい。
何だこれは。
身体の中心でも相似形の螺旋がうねり、流砂のように俺を飲み込んでいく。
いや中心じゃない。
俺を飲み込もうとしているのはさっきマトゥアハに刺された――――
「――――ッ!」
空へ向かって飛び跳ねるようにして立ち上がる。
辺りは。変わらず島。
今は。明け方。
ここは。貝殻海岸。
皆は。倒れている。だが生きている。
連中は。まだ舟にいる。俺たちを見ている。
奴は。いる。そこにいる。緑と銀の尾を持つ巨大いなり寿司。
水は。水はある。
食糧はあるし仲間もいるし気持ちも全く問題ない。
「!?」
思考の速度が普段より増しているいつもならもっと。
いつもなら俺はむしろ手足の方を先に動かしてしまって失敗するのに近いぞ構えろもう構えている剣を抜いてああ。
ああ落ち着けでも温州が動いている死んでない良かったでも。
「っく」
唾を飲む。
そして頭をがんがんと叩いて思考を意図的に鈍化させる。
俺は既に背中の剣、それも短い方を抜き、マトゥアハと対峙していた。
稲荷寿司を覆うのは壁画に刻まれた紋様を思わせる目玉のマーク。
奴の尾は今の今まで垂れていたが、俺が戦意を取り戻すや、ぴひゅん、ひゅひゅん、としなり始めていた。
(遅ぇ……!)
奴の動きは遅い。
先ほどは不意を突かれたが今度はやれる。
やれる。俺はやれる。
心拍が上昇していく。
銛で刺された部位からじわりと仄かな温かみが広がって来る。
傷は浅い。だが注入されたのはイモガイの毒。
俺はあとどれぐらい立っていられるのか。
温州達を助けられるのか。
どくっ、どくっと速度を増す鼓動に合わせてぐんぐんと俺の思考も加速する。
まず奴の尾の可動範囲を見極める。見極めてそして回り込む。回り込んだらフェイント気味に一撃をくれてやる。
いやダメだ。さっき剣が奴をすり抜けた。奴は死なない。死なないからつまり。
つまり何かが足りないのだ。俺たちには何かが。
だったら俺は――――、――――、――――
――――を、――――。――――、――――――――。
――、――て、――――を――――。――――が――、――だが――――なので――――。
――――を――――、――――、――――して――――。――――。――。――――。
「はっ!?」
酸欠寸前に陥っていた俺は呼吸を思い出す。
危うく暗くなりかけていた視界に色が戻り、新鮮な空気が肺を満たすのが分かった。
血流に乗って全身に酸素が運ばれ、ジュースの雨でも浴びたかのような甘い感覚に包まれる。
(い、今――――)
空はフラミンゴ色のままだ。
額に浮いていた汗もまだ額に浮いたまま。
時間はさほど経っていない。
(俺は今――――)
高さ1メートルにも満たない黄土色のマトゥアハは尾を下ろしていた。
俺もまたいつの間にか手から剣を取り落としている。
(今、何十分考えてた……?)
思い出せない。思考を始めてから何分経ったのかを思い出せない。
だが覚えている。
俺は今。
たった今、この不気味なマトゥアハを殺すシミュレーションを約7通り組み立てた。
今だ。
今。まさに今。
額に浮いた汗の玉が落ちるよりも早い時間で、俺はそれを考え抜いた。
幻じゃない。筋道だった思考だった。
つまり俺はほんの数秒の間に、猛烈なスピードで『思考』したのだ。
一切の無駄なく、しかも破綻なく。
(何だ……何だこれ……)
先ほどまで前頭葉でぐるぐると渦を巻いていた「何か」が消えている。
臍でぐるぐるしていたのも感じない。
その不快な連中は俺の身体から――――
――――『出て行った』。
「!!」
ちくり、と何かが俺の足を刺す。
小さなイモガイだ。靴の上を這い上がったそいつが、翡翠色の銛を俺に突きたてたのだ。
(野郎、油断も隙も――――)
ぱあああっ、と。
十年も土埃を浴びっぱなしのメガネを拭ったかのように、俺の視界が開けた。
「――――っっ!?」
ピンク色の空は。
よく見れば太陽からの距離で微かなグラデーションを構成している。
今の俺はその襞の一枚一枚を感じ取ることができた。
肌に触れる風は絹糸のごとき細い大気の揺らぎが縒り集まって出来ている。
波は戦士の一団のごとく無数の貝の口へと分け入り、殻を転がし、そして静かに砂浜へと吸い込まれていく。
「はっ……! はっ……!」
感覚が暴走している。
いや。
俺は今、人間には決して許されない体験をしている。
舟に乗る連中の吐息を一人一人聞き取ることができる。奴らは誰もが恐れ、怯えている。だがその中に僅かな興奮も感じる。
温州が、蘇芳が、ナタネが、胡麻堂教諭が、俺と同じ感覚の中で呼吸を乱しているのが分かる。
どっくん、とくん、とくっとくっと冷酒を注ぐような四人分の鼓動が聞こえる。
俺自身の拍動も信じられないほど近く感じる。
ばくん、どくん、とあぶみ骨にすら響くそれは、ひと打ちひと打ちがまるで小規模な爆発だ。
「っあ、っあ……!」
ただ立ち竦むことしかできない俺は、徐々に肩を跳ねさせる。
エネルギーだ。
途方も無いほどのエネルギーが胸の奥から湧いて来る。
そいつが俺を胸から突き上げ、棒立ちを許さない。
抑え込めない。
抑え込むなんてとんでもない。
走り出せ。
暴れ出せ。
さあ。
「~~~~~~ッッッ!!!!!」
大きく、大きく、大きく伸びをする。
筋肉が、骨が、心地良い伸縮の悦びに震える。
「っぷはああああ~~~~~~~~~っっっ!!!!」
息を吐き出すと同時に、俺はどうしようもない解放感に包まれていた。
まるで鼻の角栓という角栓が一粒残らず抜け落ち、頭皮のフケというフケがすべて剥がれ落ち、毛穴の脂という脂が残さず流れ出したかのよう。
息を吸えば気道から肺へと続く酸素の流れが実感できる。
更にそこから全身を伝う血液にまで俺の感覚が追い付き、あろうことかそれを抜き去る。
心臓付近で待ち構えていた俺の感覚は理科の授業で習った通りの心臓の働きを目の当たりにし、その感動に打ち震える。
ああ、何て。
何て人間の身体は素晴らしいのか。まさに神様の造形だ。
そして。
そして何て人生は美しいのか。
「っぷ、ほおおおおおおっっっ……」
ここまでがたったひと呼吸の間に起きた。
ふた呼吸目で、俺は記憶が清められていくのを感じる。
書類選考でさんざんに落とされたこと。
おいおい、専門職でもなければ中途採用の書類合格率なんて普通3割以下なんだぞ。
成功率30%の勝負に負けることのどこがおかしいんだ。
俺は世の転職者の多くが味わう通過儀礼でうずくまっていただけなんだ。
今までの人生で何も為し得なかったこと。
何かを為すってどういうことだ。金持ちになることか? 名声を得ることか? 仕事が充実していることか? 幸せな家庭を築くことか?
考えてもみろ。金持ちは常に失う恐怖を感じている。名声は一夜で地に墜ちる。仕事なんてどれも隣の芝だ。家庭は四つに三つが壊れてしまう。
俺は何も為し得なかったが、逆に何を喪うことも無かったのだ。
プラスは無いが、マイナスも無い。トータルで言えばトントンのところに居るじゃないか。
借金背負っているわけでなし、五体に障害があるわけでなし。
親の期待に沿えなかったこと。
親が何だ。人生の半分は親に台無しにされると言うじゃないか。
だいたい、奴らは奴らの親の期待にどれほど応えたんだ。分不相応な期待を俺に寄せたんじゃないのか?
鳶が鷹を生むか。俺の人生の惨めさは親の人生の惨めさとひとつながりだ。
だがそれでもいいじゃないか。虐待されたわけじゃないし。
つまるところ俺は――――
――――俺は、まあまあ幸福だったんじゃないのか。
「あ、あっ……」
三呼吸。
俺は薔薇色の光に包まれる。
世界は写真よりも鮮明に、絵画よりも見事に俺の前に立ち現れる。
見ただけで目が甘く痺れ、音と匂いを伴うそれは俺の全身に歓喜の嵐を巻き起こす。
素晴らしい。世界は素晴らしい。
四呼吸。
万能感に満たされた俺は黒目を無傷で、効率良く殺す方法を五つも思いつき、それを実行して奴を百回殺す。
赤目は脳内で二百回殺した。青目は一万回。緑目は三回。
見ろ。俺を見ろ。俺は何でもできる。俺にできないことはない。
もっとだ。もっと万雷の拍手をくれ。
俺を褒めてくれ。俺を褒めてくれ。こんなにすごい俺を褒めてくれ。
そして五呼吸。
俺は棒立ちのまま、ふらふらと左右に揺れる。
揺れながら――――最後のマトゥアハを殺す。
脳内で。何度も、何度も。
口元に暗い笑みが浮かぶのが分かる。
何が最後のマトゥアハだ。何が『親機』だ。
こいつを見ろ。
小さい。遅い。それに――――軽い。
確かに武器は貫通するが、こいつの持つ必殺の毒針は見ての通り誰をも殺すことができなかったのだ。
それどころか快楽すらもたらしている。敵を気持ち良くさせて、元気にさせている。
この甘美な感覚を手にした俺に比べ、こいつは殻を被ったでかいナメクジ同然。
デカさはせいぜい仔牛だ。見下ろせてしまえるじゃないか。
この目の紋様も蛾のそれと同じで、ただのハッタリなのだ。
押し潰す体重も持たない。
牙も持たず、爪も持たず、触手も、鋏も持っていない。
生物として遥かに下等。
ふふ、と。
俺は嗤う。
(いつでも殺せるじゃねえかこんな奴……)
何を本気になることがある。
こいつは文字通りの雑魚だ。
ほらこの通り――――
「ふっ、ふっ、ふっ!!」
俺がすぐ傍で軽く反復横跳びしても、奴は反応すら間に合っていない。
ただおろおろと頭を巡らし、力なく垂れた尾でぴちゃぴちゃ貝殻を叩くばかり。
「っく、くくっ」
笑いがこみ上げて来る。
何て爽快で痛快な気分だろう。
ふと見れば、生足に砂と汗と貝殻をこびりつかせた蜜輪温州(みつわうんしゅう)が立ち上がるところだった。
彼女は目の焦点が合っていない。
にも関わらず、口元にはクリスマスプレゼントを抱えた子供のような笑みが浮かんでいる。
「ふ、ふふっ」
「よお」
無事か、と言うより早く彼女が抱き付いて来る。
昨夜散々に吸い、弄んだ乳房が押し付けられる。
ひひ、ひひひ、とどこかで誰かが笑う。
舟を見やった俺は、漁民共があの小さなイモガイを手にしているのを認めた。
連中はイモガイを首やら腕やらに向け、その翡翠の針を自らに突き立てている。
何人かは貝をぼちゃんと海に取り落し、船べりに首を預けてへらへらと笑っていた。
おぽぽぽ、と手のひらを口に当てて楽器のように鳴らしている奴がいる。
海面をぴちゃぴちゃと手で叩く老人がいる。
網をめちゃくちゃに引っ張り、その中へ潜り込もうとする子供がいる。
酷い祭りだ。
ああ、酷い、と俺はまた嗤う。
「おいさん? おいさんわらひっ……すごいの」
温州は口から涎を垂らし、安産型の尻を左右に振っていた。
目は血走っているというのにその表情はあまりにも晴れやかだ。
「な、なにもしれないろにぬれえう」
酔拳さながらの動きで蘇芳が立ち上がり、ぺたんと尻もちをつく。
その上にナタネがぺたんと転がり、二人は虚ろな目で笑う。
「ヘ、エエヘヘッ」
「ふひっ……ぃぃひひっ」
二人は刺された傷にも取り落した武器にも目をくれず、貝殻を掴んでは投げ、自らの乳房を揉み、手の甲をかきむしっている。
胡麻堂教諭は一人艶っぽい声を漏らしながら、我が身を抱いて身をくねらせていた。
「……ぁ。ぁっ……!」
その様を一人ずつ確認した俺もまた、ぷひゅっと空気が抜けるような笑いを漏らす。
「ふあ、ふああはははは。な、なぁりやっれんら、おまあら」
仕方ないな。
仕方ない。こんなに気持ちいいんだからちょっとぐらい変になるのも仕方ない。
酒だ。酒と同じだ。
忘年会みたいなものだ。神様の前では無礼講なのだ。
俺は神様――――デカイいなり寿司様を見た。
ああ、これだ。
これがマトゥアハのもたらす「豊穣」だ。
人間達の命と引き換えにもたらされる至高の快楽。
アサだとか、ケシだとか、そんなしょっぱいものじゃない。
限りある土地で、限りある資源で、限りある人員で、血眼になって栽培したり加工したり、輸送する必要などない。
奪い合わなければならないような、そんなセコいものでは断じてない。
無限だ。
無限のわだつみからもたらされる極上の××。
人生の答えである「幸福」をいともたやすく得られる最高の××。
これがあるから、誰もマトゥアハを止められない。
思えばこの島は未開だった。
これほど本土が近いのに、電気や機械が足を踏み入れた形跡が無い。
文明は拡大せずにはいられないものだと社会の教師が言っていた。
だがこの島の連中はすぐそこにある新天地へ手を伸ばすことをせず、更には新しくもたらされるものすべてを拒んだのだ。
その理由はただ一つ。
島に棲むマトゥアハの恵みが、文明の利器などでは遥かに及ばない幸福と充実とを与えてくれるから。
この島の住民たちは怪神と共生していた。
そして今、それを受け継いだあの漁民共もマトゥアハと共に生きている。
背徳的で、理想的な互恵関係。
その真実にたどり着いた俺は、その場にどっかとあぐらをかいた。
こみ上げる笑いの理由など分からない。
分からないが、ただただ愉快で、痛快だ。それも精神だけじゃない。肉体的にもすこぶる充実している。
温州の膣内にたっぷりと射精して数時間。
本来なら半日は萎えているはずの肉茎が、人生最高の勃起を見せていた。
もちろんその感度も尋常じゃない。
下着の布がこすれただけで先走りが溢れるし、蔓のように竿を這う血管で風の動きすら感じてしまえそうだ。
「は、っははは」
もしこの状態で。
もしこんなにも感度が研ぎ澄まされた状態でセックスなんてやったら――――
「ふ、くくっ……」
気づいたのは俺だけではなかった。
俺の下半身を見た温州が含み笑い、悪戯っぽい笑みを見せている。
「ぉ、じさぁん。ふ、ふふっ。……んぁっ」
俺は既に目を潤ませた温州を抱き寄せる。
彼女の身体は熱く、柔らかい。
「知っ、知っれる? しゃぶせっ、しゃぶせっくすってほんと、だめにらるんらって」
温州は俺にしなだれかかり、マタタビを嗅いだ猫よりもだらしなく俺の首元に口を寄せた。
「おぃさんのなまっ……なまえっちれもあんなすごかったろに、いい、いまっ、いましたらわらひしんじゃう……ぜったいしんじゃう……!」
死んじゃう、死んじゃう、と言いながら温州は俺の膝に恥部を宛がい、早くも自慰を始めようとしていた。
その反対側から一人の影が近づいて来た。
「じゅ、ーぐ?」
生まれて初めのての感覚に戸惑いながらも、本能的に自分の肉体が求めていることを察したナタネが俺にすり寄る。
彼女は親に小さなテディベアをねだる少女のように、俺の腿に片耳を寄せ、頬ずりを繰り返した。
「……お、おじさま」
膝立ちとなって背中側から俺を抱きしめるのは蘇芳(すおう)だ。
元より高い身体能力と鋭敏な感覚を持つ彼女は、すっかりマトゥアハの恵みにやられたらしい。
「あの……わら、わらひ、ちゃんと身体、拭いれます。だらら……」
彼女は法悦の中に僅かな悲哀を滲ませていた。
どこか遠慮がちに俺に問う。
「私っ……わらしっ、みっちゃんみたいに可愛くないっ、ないっけど……あの、あのっ……」
きりりとした表情の似合う彼女がここまで大げさに反応するのは珍しい。
背後から首に回された腕、その手の甲を握ってやると蘇芳は驚きと歓喜に目を見開いた。
「いいんれすか……! 私っ、私も一緒に……いいれすか……?!」
小さく頷くと、蔓のブラ越しに意外と大きな胸が押し付けられる。
目の中にハートすら見えるほど表情を緩ませた蘇芳が早くも目を閉じ、キスをねだって唇を尖らせる。
と、俺の下腹部から最後の一人が這い上がる。
胡麻堂教諭は既にジャケットを脱いでおり、はち切れそうな胸が垣間見えるほど大胆にボタンを外していた。
「ぁ。ん……あの」
もにょもにょと口内で言葉を溶かした彼女は、きっと鋭い目つきで俺を睨む。
思わずたじろぐほどの表情だったが、その口内ではだらしなく舌が蠢いていた。
「みせ、未成年とそら、そんらことしちゃダメ、れす」
恵みの効き過ぎた教諭はろれつも回っていなかった。
「そりは、そりはダメれす。私、わらひもっ……教職れすし、それに、んぐ、彼も……彼も待っれくれえう、ろにぃっ」
四つん這いになった教諭が俺の下半身に近づいて来る。
上目遣いで俺を睨みつけたまま、ダメ、ダメ、とうわ言のように繰り返しながら。
繰り返しながら、口だけでジッパーを下ろそうとしている。
温州が胸を押し付ける。
蘇芳がキスをねだる。
ナタネが指を待っている。
――――俺はフラミンゴピンクの空を仰いだ。
そうだ。
何を忘れていたんだ。
俺はこの島に――――
女を抱きに来たんだ。
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