10#明日無き世界に羆王は絶叫する
≪よお!エゾシカの王よ!!用事は済んだかい?≫
『神の国』に戻ってきたエゾシカのニイムに、ニイムの沢山の仲間のシカ達と、エゾオオカミ達に軽く会釈をした。
「あれえ?みんな!萎んだ風船なんか持ってなにしてるの?」
≪これ?ああ、『ライバル』同士揃ったから、皆で風船膨らまし競走をしようと思って。≫
立派な身体のエゾオオカミがニコッと微笑んで言った。
≪俺は、地上に生きてた頃、オオカミの群れのリーダー格だったんだぜ!!ぜひ、エゾシカの大リーダー格のお前さんと風船膨らまし対決したくてな!!≫
「で、この風船どうしたの?」
エゾシカのニイムはオオカミ達に聞いた。
≪風船?ああ、地上で割れて『死んだ』風船がどんどん、この『神の国』にやってくるんだ。
きっと、あんたが割った風船もあるかもよ?ふふん。≫
「そうなんすか?」
エゾシカのニイムは、『神の国』でエゾオオカミとはしゃぐ1000頭ちょっとのエゾシカ達が持っている風船や、地上でヒグマに膨らませた風船達のことを思い出した。
ふうわり・・・
「あっ!これ、地上に引き返した時にヒグマの奴の前で膨らませた緑色の風船だ!
楠んだ緑色の風船だから、それだ!
ヒグマの奴、ちゃんと『大地の王』やってるかな?
ハンターに殺められてないかなあ?」
≪おーい!『シカの王』よ!一緒に風船膨らまし大会するんでしょ?
みんな待ってるぞーーー!!!!≫
「あっ!しゅみませーん!やっと俺の風船が見つかったもんで!」
エゾシカのニイム、飛んできた緑色の風船を萎ませて口にくわえてエゾシカ達やオオカミ達の待つ場所へ走っていった。
・・・・・・
・・・・・・
「死んだか・・・あのキツネ。チプってデブい奴。
これでメタボっているキツネは全部、冬を越せなかったか。」
エゾシマフクロウのボォボは、既に蛆虫の沸いたキタキツネの亡骸を逞しい鉤爪で掴むと、再び鬱蒼と生い茂る木の枝に留まって、むさぼり食った。
「おーい!俺の獲物採るなぁーーー!!」
バサバサバサバサバサ・・・!!
「あら。これはオジロワシの何だっけ?」
「ズコー!!俺は、『クナシ』だ!オジロワシのクナシ!」
「オジロワシのクナシ、やっばりか。あのゼニガタアザラシの人間どもの大量惨殺の犠牲に知り合いの『エーダ』がいたのを。」
「・・・・・・」
「そう、涙流すとは、本当だったんだな・・・!!」
「ああ・・・人間は身勝手だよ・・・
あいつ人間に『稀少生物』としてさっきまでチヤホヤされたのに、漁師のしている人間に、「漁場を荒らす」というだけで、悪玉よ・・・
もう、あの場所にアザラシ建ちは数える位しかいねえ。
なにが『絶滅危惧種』だ!!人間の都合で・・・
そんな俺も『絶滅危惧種』だけどな!」
「わしも『絶滅危惧種』じゃ!ははは!!」
「『絶滅危惧種』同士。だな。でも、人間の都合で振り回されるのも同じだな。ほら、もう一頭、『絶滅危惧種』なのに、人間に滅ぼされそうな奴が。」
オジロワシのクナシとシマフクロウのボォボのいる木の下で、一頭の逞しいヒグマがのっしのっしと歩いていた。
「『あいつ』かなあ?」
「『あいつ』って?」
「『大地の王』。」
「『大地の王』?」
「ちょっと振り向かせてみようか?」
「シマフクロウさん。俺、一緒に遊ぼうとゴム風船を2つ持ってきたんだけど。」
「おっ!それはいい!!」
2羽の『絶滅危惧種』は、萎んでいる風船を嘴にくわえると、
「じゃあ、膨らますぞーー!せーの!」
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぜえ、ぜえ。
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
「こんぐらいでいいかな?」「うん!」
「じゃあ、吹き口離すぞーそぉーれ!」
ぷしゅーーーーーーーーー!!ぶおおおおおーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる・・・ぽとん。
「ん?」
ヒグマは気配に気が付いた。
のっしのっしのっしのっし。
にこっ・・・
「あーーっ!やっばり!この笑顔は!!」
シマフクロウのボォボは言った。
ヒグマは、萎んでいる風船が2つの萎んだ風船を見付けると、鉤爪でつかんで体毛で拭くと、大きな鼻の孔にそれぞれに風船の吹き口を宛がって、2ついっぺんに鼻息を吹き込んで膨らませた。
ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!
「うわーーースゲェど迫力!!ひと吹きでパンパンに膨らませた!!」
オジロワシのクナシは、感嘆した。
そして・・・
ぶおおおおおーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!ぶおおおおおーーーーーー!!
ヒグマは満面の笑みを浮かべて、2羽に向かって風船を放った。
「うわーーーーっ!!ケモノ臭い!ケモノ臭い!!」
オジロワシのクナシは、立派な翼をパタパタと嘴の鼻の孔の先を扇いだ。
「やっぱりだ!生きてたんだ!!!!『大地の王』ことヒグマのヴァン!!
わし、ハンターに撃たれたとめっきり心配してたけど、生きてたんだ!!生きてたんだ!!」
シマフクロウのボォボは、頭にヒグマの放った萎んでいる風船を載せ、目に嬉し涙を流して喜んだ。
「ヒグマか・・・俺の仲間の自称『風の王』こと『ボマイ』も、人里に来たというだけで人間に射殺されたんだ・・・
あいつもさあ、風船が大好きなヒグマだった・・・この前、大きな風船を拾ったとわしに見せびらかして、一気にパンパンに口で膨らませた時は、羽根が全部抜け落ちそうになる位仰天した頃が・・・あいつの住んでた洞穴に、森じゅうで拾ったゴム風船を、あいつの好きなハナマスの花と一緒に手向けようか・・・うううう・・・君、ヴァンだけは・・・いや、ヒグマ達は何時までも居続けて欲しいよ・・・人間に翻弄されずに・・・うううう・・・」
オジロワシのクナシも白い尾羽にヒグマの放った風船を載せて、涙を流した。
ぐおおおおおおーーーーーーー!!
ぐおおおおおおーーーーーーー!!
遠くの崖でヒグマは、遠吠えをした。
それは、正に『大地の王』に相応しい風格だった。
それは、とても物悲しく消されて行く北の大地の生き物達へのレクイエムのように轟いていた。
~鹿の角の風船~エゾシカ編~
~fin~
鹿の角の風船~エゾシカ編 アほリ @ahori1970
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