最終話 青い運命
西の都――カレスへと続く行軍の途上。
ヨシヲとビクターは、遠く地平の果てを眺めながら、肩を並べて歩いていた。
照り付ける日の光と足裏に絡みつくような砂。
うんざりとした表情で、ビクターが額の汗をぬぐう。
「……キャラバンだと馬車に乗っての移動だからな。徒歩での行軍は疲れるぜ」
「鍛錬が足りないぞビクター。お前、それでも冒険者か?」
「元だよ、元。俺はキャラバンの隊長で――まぁ、今はこんなことやってるが」
「この戦いが終われば、また、元の鞘に収まるつもりか?」
「……まぁな」
どこか迷いのある感じに、彼はそう言うとヨシヲの方を見た。
彼は、それならそれもまたよしとばかり、何もない地平のかなたを見ていた。
あるいは自分の未来を、彼は見ているのかもしれない。
「……お前はどうするんだ? 大英雄?」
「何がだ?」
「もう名声は十分に手に入れただろう。チーレムだっけか? 今度の戦いで先王の弟でも捕まえちまえば、お前、もう女なんてより取り見取りじゃないか」
まだ、冒険者を続けるのか、と、遠回しにビクターはヨシヲに尋ねたのだ。
実際にビクターの言う通りだ。この国を救えば、これ以上、戦い続ける必要も理由も、もはや彼にはないのかもしれない。
しかし――。
「ふっ、分かっていないな、ビクター」
「なに?」
「俺が求めるチーレムは、そんな簡単に手に入れられるモノじゃない。俺が選んだ極上の女たちと、極上の武勇伝による、未来永劫語り継がれる英雄譚だ」
「分かる訳ないだろうそんなの」
何をバカなことを言っているんだ、と、ヨシヲの肘を小突いたビクター。
しかし、すぐに返って来た、真剣な視線に彼はぎょっと目を剥いた。
「俺を誰だと思っているんだ?」
絶対にできる、絶対にそれをやり遂げる。
ヨシヲの眼はそうビクターに訴えかけてきた。
こいつなら、本当にできるのかもしれないな、と、思いながらビクターはふざけたように笑う。
「ブルー・ディスティニー・ヨシヲ、だろ?」
「そうだ。青い運命が呼ぶ限り、俺の伝説は終わらない――俺の英雄譚は続く」
「一生言ってろよ。横で聞いててやるから」
「そうだな英雄譚にはそれを聞き届ける、介添人が必要不可欠だからな」
ふはは、と、笑う二人の冒険者たち。
東から差す日の光が、二人の拳が交わる影を赤土の大地へと落とす。
【完 → どエルフさん四部へ続く】
【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ kattern @kattern
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