第20話 おしえてエロジジイ

 あ、師匠?

 悪いね、こんな時間に。寝てた?

 ――ならいいけど。


 昼間ありがとね。うん。……まあ年間一万キロも走らないからね、あのベンツ。どうせウチで下取りすんだから、よそ持ってかれるよりは。

 そそ。

 下手にいじくられて査定下げるよりはね。


 え?

 ああうん。うん。うん――分かった。今度会ったら言っとく。うん。あと若社長にもっと痩せろって言っといて。そうそう。昔もっとシュッとしてたのになぁ。

 はあ? 初恋じゃないよ、俺もっと面食いだもの。


 やかましいわ。それはおカミさんの遺伝子が半分入ってるおかげだよ。


 聞き捨てならねえって、それ本気で言ってんの?


 えとさ、単車の話なんだけどさ――そうそうモト・グッツィ。

 あれ保安部品だけちゃんとしとけばナンバー下りるわけ?


 うん。うん。うん……や、それまだ分かんない。うん。

 え、嘘……それまずいじゃん……。


 書類?

 全部あるよ。

 構造変更? ああサイドカーの?

 一回ナンバー切っちゃてるけど、これは……。


 あ、そっかそっか。

 了解了解。じゃあ一回組んだら赤ナンバー取ってそっち行くからさ。

 うん。頼むわ。


 だから負けないって言ってるじゃんよ。エンジン組んだときだって「まあまあだな」とか言ってホントは悔しかったんじゃないの~?

 ――分かった。分かったって! お説教は今度ちゃんと聞きますって!


 いやそういうんじゃないんだけどさ……ちょっと面倒なの転がり込んできちゃってね――。


 え? ……そういう風に聞こえる? マジで……?


 違う違う!

 女だよ、女――だからオカマじゃないって……。前々から言おうとは思ってたけど、俺も別に男だったら誰でもいいって訳じゃないからね?

 なんかメディアのイメージで同性だったら誰彼構わず欲情してるみたいに思われてっけど。

 だから違うって。そ、色々とあんの。


 うん。いま一緒に住んでんだよ。行くとこねえって言うからさ……。

 勘弁してよ! それこそムリな話だって。

 それが出来たらいままでこんなに苦労してないよ。あはは。


 でさぁ。

 これがズボラだわ、酒飲みだわ、ガサツだわで可愛くないんだけどさ。

 言われなきゃパンツも自分で洗わないとか、どう思うよ?


 うん……まあね。楽しいよ、何だか。


 なんか爺さん思い出すんだよね。どこが似てるって訳でもないんだけど――。

 天真爛漫っていうの?

 でも時々えらい真っ当なこと言いやがるんだわ、これが。

 まあ感化されてるっていうか、一緒にいて楽っていうか……。


 え?

 だから違うって。無理して所帯持たせようとしないでよ。『本家』の当主なんてそもそも興味ないんだからさ。それに相続だの何だの、余計な荷物背負い込みたくないんだよ。

 この屋敷だっていつまでいられるか分からんし。


 まず第一に親父が俺のことを絶対に認めるわけないよ。

 べつに認められたいとも思っちゃいないけどさ。

 十九で勘当されてからずっとひとりでやってきたんだ。いまさらどうでもいいよ。


 まあね。オジキはまだ諦めてないみたいだけど。


 ――分かってるよ。早苗さなえには悪いと思ってる。

 俺だってこのままでいいとは思ってないんだからさ。


 うん。うん。うん。悪いね、気ィ使わせちゃって。そっちももういい加減、棺桶に片足突っ込んでるようなもんなんだからさ。

 え?

 うるせえって? あはは。


 うん。さんきゅ。じゃあ切るよ。おやすみなさい。ちゃんとクーラーして寝るんだよ。年寄りの冷房嫌いは熱中症の原因になるってテレビで言ってた。あはは、うるさいって?


 はい。はい。はーい……え?




 うるせえ、このエロジジイ!

 長生きしろ。

 じゃあね。

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