ティル・シュライベンの戦記『雪原のメルヘン』

第16話 Правда《プラーヴダ》 真実

「……ロシアの皆さん、如何いかがお過ごしですか? アーニャ・ローズです。お寒い中、風邪などお引きになられてないでしょうか? 私の声でお温まり下さいね。では、先ず今日の一曲目。カミラ・ヴィリウスの新曲"常夏のパラソル"。じっくりと、お聞き下さい」

「おいっ、こら! お前ら、敵の放送なんか聞くんじゃない!」

怒鳴り散らしたのは、副官のヤン・キタエンコ少尉だ。

「中隊長がお呼びだ。搭乗員は全員集合!」

「クソッ、曲の最中だぞ」

と、ウラジミール・ジムネンコ曹長が毒吐どくづいた。

「後でダビングしますよ」

オレク・クリョーノフが軍曹がなだめる。

「おい、ペーチャ。何だと思う?」

と、ウラジミールが肩に手を回してきた。

「再編成の話じゃないのか?」

「だと良いがな」

我々は、レオンチ・テデーエフ中尉の前に整列した。

「何ですか、中隊長?」

と、ウラジミールが物申ものもうした。

「君達に見てもらいたい物がある」

そう言うと、中隊長は自分のタブレットをこちらに向けた。

吹雪が映し出されていた。視界は至極悪い。

「ガン・カメラの映像だ」

「しっ」

と、私はオレクを黙らせた。次の瞬間、右斜め前から閃光が走った。映像が激しくぶれる。白い物体捉えたが、瞬く間に視界外に消え去る。こちらの銃弾が虚しくくうに消えて行く。映像が一瞬乱れた。

「喰らったな」

と、ウラジミールが呟いた。

また、激しく映像が二度、三度と乱れ……遂には画面が九十度回転して、横たわった。

「やられなすった。こりゃあ、駄目だな。アーメン」

ウラジミールの言う通り、搭乗員は即死だろう。

「あっ!」

映像が突然、炎に包まれた。

「証拠隠滅のつもりかー。あははっ」

「曹長!」

と、キタエンコ少尉が声を荒げた……が、ウラジミールは無視した。

別の機体とおぼしきブッペ(ドイツ機の別称)が、画面の上から姿を現したのだ。

「何だぁ、この機体? 見た事ないぞ。新型か?」

真っ白に、冬季迷彩された機体は、炎のあかりで、はっきりと映し出されていた。

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