第14話 夜会

西暦2118年4月14日の木曜日、私は午後から休暇を頂いた。ライネルト少佐のパーティーに呼ばれたからなのだが……上司のヴィルヘルム・エヴァルト少佐の娘、マルガリーテ嬢を同伴していた。家で招待状の事を口走った所、娘に懇願されたとかで、なかば強制的に押し付けられた。まだ学生で、こういう場に来るには少し早い気がするのだが……

「見て、ティル。女優のヒルデガルトだわ。嗚呼あぁ、あれ、王立バレエ団のハインツ・シリングよ。信じられない。こんな近くで見れるなんて」

「お嬢さん、はしゃぎ過ぎですよ。声が大きい」

「あら、御免なさい」

少佐に挨拶しに行った。男女五、六人に囲まれて話しておられた。

「ライネルト少佐!」

「おお、来たか、シュライベン少尉」

「本日は御招き頂き、有難うございます」

「はは、そう固くならずに……そちらの連れは?」

「えー、遠い親戚の、従妹の」

と、しどろもどろに、を宣っていると、

「マルガリーテです」

と、お嬢さんは割って入って、前に出た。

「お若いのね」

「まだ学生ですから。ははっ」

「いえ、あなたの事よ。少尉さん」

と、背中が大きく開いたドレスを着た、背の高い女性が突っ込んだ。

「志願学徒兵ですよ」

「ほぅ、学徒志願兵とは。君、感心だな」

「偉いわ」

「いえ」

と、謙遜していると、

「ライネルト少佐。わたくし、土曜日の試合を見に行きました!」

と、お嬢さんが割って入った。

「そうなんだ」

「はい。客席で少佐の事を応援していました!」

「あのシュートが入っていればね」

「そうそう、勝てたのに」

周りの友人が、ほろ酔い気分なのか、遠慮せずに少佐を攻め立てた。

少佐はたまらんとばかりに、

「マルガリーテ、一曲御相手を」

と、お嬢さんの手を取り、その場を逃げ去った。

「少尉さん、私の御相手をして下さる?」

「はいっ。ええ、喜んで」

私も踊りの輪に加わった。

「そうそう、焦らず……ダンスは初めて?」

「新兵訓練の時に、少し、習いました」

「あら、そう。うふふ」

その時、初めて、彼女が誰であるか、気付いた。

「カ、カミラ・ヴィリウス?」

「今頃気付いたの!」

嗚呼ああ、済みません。呼び捨てにして」

「良いのよ、少尉。でも、こんな大柄な女と踊るなんて、嫌でしょう? 踊りにくいし」

「いえ、そんな事は」

私はカミラの右手をしっかりと握り締めて、遮二無二しゃにむに踊った。

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