第12話 手紙

室内の全視線が集まり中、わたくしティル・シュライベンはうやうやしく答えた。

「私の弟が少佐にファンレターを出した所、少佐の肖像画の絵葉書がサイン入りで送られて来た事がありました」

「弟の名は?」

「トイ・シュライベンであります」

「トイ・シュライベン? 国は?」

「ローテンブルクであります」

「ローテンブルク……トイ・シュライベン」

「少佐、もしや、あれでは」

と、御付の副官が口添えした。

「一昨年の夏に、私めが少佐へのファンレターを整理していた所、その中の一枚が面白くて、ついゲラゲラと笑い出した事を。それを見た少佐が貸せとおおせられて、やはりお笑いになられたでしょう?」

嗚呼ああ、あれか」

と、ライネルト少佐は膝を叩かれた。

「そうだ、ローテンブルクからの手紙だったな。思い出したぞ」

「どのような内容の手紙だったのですか?」

と、ゲッツ中尉が記者魂さながら、喰らい付いた。

「それは……此処ここで言っていいものか。なぁ?」

と、少佐は副官の方を向いた。副官もただ肩を上げるだけで。

ゲッツ中尉がこちらに視線をギョロリと。

「私は構いません。どうぞ、お話に……」

「では、話そう。トイ君の話では、学年の変わり目に新しい担任になったそうだ。そうしたら、その先生はクラス の皆が居る前で、トイ・シュライベンの兄貴は教室で小便を漏らしたと、ばらしてしまったそうだ」

くっ、とゲッツ中尉が横で噴き出した。

確かにその時期に、兄に対する弟の態度が急に余所余所よそよそしくなっていた。第二次成長期だとばかり思っていたのだが、そんな裏があったとは……

「教室中は大爆笑。だが、それからというもの、トイ君は周りからその事について、しつこく言われて。学校に行くのもやだと」

「なるほど。それで励まそうと思われて、絵葉書にサインをして送ったんですね」

「少佐っ!」

と、私は思わず立ち上がった。

「有難うございます。少佐の御気遣い、誠に感謝の仕様がありません!」

深々と御辞儀をする私に、

「何だね、少尉? 急に感極まって」

と、ゲッツ中尉は少し驚いた様子だった。

少佐の絵葉書の余白にはこう書いてあった。「私も幼い時に同じ経験をした事がある。恥じる事はない。胸を張って、生きたまえ」と。

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