第11話 取材

2118年4月8日の金曜日、わたくしティル・シュライベンは、王都ミュンヘン南部の地下深くに埋設するトゥリウㇺフ・アレーナを訪れた。

前世紀の中頃、地球は氷河期に突入し、ヨーロッパは氷によって閉ざされた。地上での活動は制限され、都市間の行き来さえ困難となっていた。高層建物物は時代錯誤となり、地下開発が主流となったのだ。

地下競技場として、世界最大の5万人収容を誇るこのアリーナを建設出来たのも、食品会社として大成功を収めたトゥリウㇺフ社の財力に拠る所が大きかった。

陸軍のサッカー・チームの試合は明日だが、前日練習の公開があるので、それを取材しに来た訳である。

「間もなく参られます」

と、伝令の兵が伝えに来た。

これから、ある選手の独占取材があるのだ。誰かと言うと、驚くなかれ。我がバイエルン王立陸軍の装甲擲弾兵パンツァ グレナディーァ搭乗員の若きエース、ユーリウス・フォン・ライネルト少佐なのだ。王国内では、映画俳優や有名歌手並みの人気を博していた。現国王の覚えも大変良く……腹違いの弟君ではとまことしやかに噂されていた。少佐は病気療養で戦地から帰国した後、現在はリハビリも兼ねて、陸軍のサッカー・チームに所属している。

「来たようだな」

と、ゲッツ中尉がつぶいた。

フラッシュが眩しくたかかれる中、我々は最敬礼で出迎えた。短く挨拶を交わすと、ソファーに座って、早速取材が始まった。

「おや、見慣れない顔が居るね?」

少佐は開口一番、私に視線を向けられた。

「昨年の9月に入って来た、ティル・シュライベン少尉であります」

と、ゲッツ中尉が代わりに答えた。

「随分と若いね」

「学徒志願兵であります」

「ほぅ……しかし」

「しかし?」

「いや。何処どこかで会ったような」

「そうなのか、少尉?」

と、ゲッツ中尉が私の顔を覗き込んだ。

私には身に覚えがない事もなかった。

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