第10話 転機

2118年4月5日の火曜日、私は宿舎から地下道を通って、陸軍省の地下1階にある機械室の一室に直行した。清掃員の仕事着に着替えると、掃除道具一式を取りに廊下へと出た所で、ユッタおばさんと出くわした。

「あら、お兄さん。主計課の人が探していたわよ」

その格好のまま主計課に顔を出すと、課長室に呼ばれた。

「おお、シュライベン少尉。来たか」

課長のグルンツ大佐は暖かく迎えてくれたが、もうその笑顔には騙されない。

「少尉、転属だ」

「えっ?」

「本当だ」

そう言って差し出された紙を受け取ると、『報道局新聞班に転属』と書いてあった。

機械室に戻り、暫し着る事がないだろうと思われた軍服に袖を通す。私物の入った段ボール箱を抱えて、階段を昇る。

「シュライベン少尉、お帰り」

着任の挨拶に訪れた私に対して、班長のヴィルヘルム・エヴァルト少佐はやはり笑顔で出迎えてくれた。

元々一日で新聞班に帰還させるつもりだったのだろうか? それとも、ヘルムート・フォン・クレーマン大将がいち少尉の為に態々わざわざ取りなしてくれたのだろうか?

「少尉。今週の土曜日に行われるサッカーの試合で、ゲッツ中尉の取材の手伝いをしろ」

配属されてからこの半年、校正の仕事に、お茶汲み、コピー取り、雑用、電話番と、新聞班室に缶詰で、滅多に外に出してもらえなかったのに。戻って来るなり、行き成りとは。これは、やはりクレーマン大将の御利益だろうか。

「いいな、少尉」

「はっ!」

私は報道局新聞班に帰還した。

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