第9話 昇天
午後の昼下がり。私は鼻歌混じりに、任務を遂行していた。もうこの頃になると、小便器の茶色い汚れも、便器にこびり付いた糞も
「はい、おいらは~、ちょっとこの辺の名物だ~、ホイサッサ。誰にでも知られた、掃除夫さ~。便器を磨いて、輝かせるのが得意~。愉快な仕事~、頑固な汚れはおいらの獲物~」
段々調子に乗って来た。はい、二番。
「はい、おいらは~、ちょっとこの辺の名物だ~、ホイサッサ。誰にでも知られた、掃除夫さ~。トイレットペーパーを取り替えて~、三角に折るのが得意~」
ドアが
私は目を疑った。はっ、と我に帰った私は、直ぐに直立不動の敬礼をした。
「随分と
「……」
私は生きた心地がしなかった。
「返事をせぬかっ!」
と、傍に控えていた将官が怒鳴ったが、その御方は右手で遮り、質問を続けになされた。
「
「昨日までは報道局新聞班でした」
「今日は?」
「経理局主計課であります」
「ふむ……で、何をやらかしたのかね?」
「あっ、う……」
先程の将官が凄い形相でこちらを睨んでいた。まぁ、言っても、良いだろう。相手は御偉いさんなのだから。
「スネグラーチカに関する極秘書類を目にしたからであります」
「ほぅ。スネグラーチカ?」
「はっ!」
御付の者達の顔色が一変した。
「偶然ですが、見てしまい」
「それで?」
「班長に全て忘れろと言われましたが、昨日、休日を利用して、市民図書館でスネグラーチカに関する児童書を貪り読んでしまい。それが上官の知れる所となり、今朝、転属の辞令を受け取った次第であります」
「はは、そうか。それは災難だったな……君はスネグラーチカに関してどう思うかね?」
いや、どう思うかねと聞かれても、文書の冒頭を少し読んだだけで、ちんぷんかんぷんで、答えようがないのだが。ふと、視線を逸らすと、先程の将官が早く答えろと
「我がバイエルン王国だけではなく、神聖ローマ帝国に取って脅威になり
「うむ。そうだな」
「はっ!」
何とか言い
「君、名前は?」
「ティル・シュライベンであります」
「ティル・シュライベン少尉……覚えておこう」
「光栄であります、閣下っ!」
「儂も士官学校時代には懲罰で、よく便所掃除をさせられたものだよ。ははっ」
「閣下、御時間が」
と、またもや横槍が入る。
「シュライベン少尉、頑張りたまえ」
「はっ!」
一団は男子トイレから去って行った。私はブラシを片手に、ポツンと一人残された。間違い無く、先程まで
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