第8話 茶会

目下の所、私の敵は白い迷彩服に身を包んだ兵士達のだった。数は8人。50㎝間隔の横一列隊形で待ち構えている。右端から順に狙いを定めて、噴射。ブラシでゴシゴシ、ゴシゴシ。とどめの引き金……もとい、ボタンを押す。サーと水が流れる。よし、一人片付けた。次の獲物に噴射~。

こうでもしないと、小便器の掃除など、やってられん。

不意に扉が開いた。

「お兄さん、休憩にしましょうか」

わたくしティル・シュライベンは彼女達の部屋におじゃました。こちらも地下の機械室の一室であったが、中は家の居間の如き様相を呈していた。

「さあ、召し上がれ」

代用コーヒーの味は言わずもがなだが、一緒に具された菓子はうまかった。

「そのマジパン、ユッタの手作りなのよ」

「へえー。美味しいです。店で売っているのと変わらない」

「彼女の旦那、菓子職人だったのよ」

「だった?」

「夫は戦死したの」

ユッタおばさんは表情にかすかに悲しみを浮かべていた。

「私の夫もそう」

「内も」

「私も」

「えっ! じゃあ、皆さん戦争未亡人で?」

「そっ」

彼女達は明るく笑顔で答える。まさか、そういう境遇だとは思いもしなかった。

「お兄さんはさと何処どこ?」

「ローテンブルクです」

「まあ、遠い所から」

「御両親は?」

矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

「父は去年の始めに心臓麻痺で亡くなりました」

「まぁ……」

「実家には母と、妹3人と弟が1人」

「それで軍に?」

「ええ、まぁ」

と、私は遠慮がちにうなずいた。

「成程ね」

「妹さん達のために。偉いわー」

「感心ね」

此処ここが陸軍省の地下室だとは思えなかった。年始の親戚の集まりで、小母さんや従姉妹に囲まれているが如きであった。

「コーヒー、お替りしましょうか?」

「はい、御願いします!」

王都に来て以来、初めてホッとした気がした。

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