第7話 奈落

私は私物をダンボール箱に詰めて、報道局新聞班の部屋を後にした。階段を降りた1階に経理局主計課がある。ここが私の転属先だ。

課長のグルンツ大佐が暖かく迎えてくれた。

「話は聞いている。副官っ」

傍に控えていた中佐を呼んで、耳元で何やらこそこそ……

「シュライベン少尉、私の後に続け」

と、のたまう副官の後を追って、階段を降りる。地下1階だ。入り組んだ廊下を進んで行くと、機械室が幾つもあった。その内の一部屋に入ると、使い古された机と、錆びだらけのロッカーが置かれていた。

「これに着替えるのだ、少尉」

言われるまま着替えたが、どう見ても清掃員の仕事着であった。

「似合うぞ。さあ、来い」

元来た廊下を戻り、1階に上がると、トイレの前に初老の女の清掃員が居た。副官はその女性と小声で何やら遣り取りを済ませると、反転し、そのまま主計課のある方へ歩き出した。

「中佐、自分は何を?」

「……」

副官は私を置いて、無言で立ち去った。

「お兄さん、何を仕出しでかしたの?」

に、とてもじゃないが話せる事ではない。

「男子トイレの清掃、全部あなたにやらせろってよ」

歩兵の装備一式を支給されるはずが、掃除道具一式を渡された。

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