第6話 聴聞

西暦2118年4月4日の月曜日、わたくしティル・シュライベンは普段と変わりなく、宿舎から地下道を通って、バイエルン陸軍省に登庁した。

報道局新聞班が私の所属先なのだが、唐突にも副班長のウッベン大尉の出迎えを受けた。

「シュライベン少尉っ、班長が御呼びだ!」

私は心の臓が止まった。

「何をもたもたしておる。さっさと行け!」

「はっ!」

私は鞄を置くと、急ぎ班長室のドアの前に立った。何で呼ばれたのか、検討は付いていた。襟を正し、ドアをノックした。

「班長殿。ティル・シュライベン少尉、只今参上しました」

「入れ」

「はっ!」

新聞班長、ヴィルヘルム・エヴァルト少佐の語気は既に小刀メッサーのように鋭く尖っていた。

「少尉。君は昨日の休日、何処どこに出掛けたのかね?」

「昨日は、真ん中の妹の誕生日が来月ですので、それを買いに出掛けていました」

「その後は?」

ついでに、母や他の下の者達の贈り物も買いにであります」

「その後は?」

「中央市場の食堂で昼食を取りました」

「……」

班長はその大きな身体からだ背凭せもたれに預け、おもむろに口を開いた。

「その後は?」

沈黙した。世界ではなく、私が沈黙していた。

「シュライベン少尉。君は本が好きか?」

「はっ」

「どのような本を読む? 嗚呼ああ、好きな作家は誰かな?」

ここは変に嘘を言ってはいけない。真実を言うのだ。出ないと、顔に出る。

「私は……セルバンテスが好きであります」

「ほぅ、スペインの」

「はっ」

「ドイツ人ではないのかね?」

「いえっ。ゲーテや、ケストナーも好きであります」

「ロシア民話も好きなのかね?」

嗚呼あぁ……

「それとも好みの司書ビブリオテカーリンでも居たのかな?」

完全にばれている。市民図書館に行って、児童書のコーナーでに関する本をむさぼり読んだ事を。監視されていたのか、私は? あの日から、ずっとなのか?

「君は約束を破った」

いや、スネグラーチカに関する本と言っても、それらは全て児童文学かただの絵本なのだが……班長にその言い訳は通用するとは思えなかった。

「シュライベン少尉、転属を命じる」

私は金槌ハンマーでどあたまん殴られたかのような衝撃を受けた。青天の霹靂へきれきとはまさにこの事だ。まさか、このような形で戦地に赴くとは思いもしなかった。極寒の東部戦線へ。

「さぁ、辞令を受け取りたまえ」

武者震いする我が身を必死に抑えながら、私の運命を決する書類を受け取った。

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