第4話 機密

重苦しい空気が私の机を包み囲んでいた。タブレットの画面上に映し出された書類には、間違い無くの印がある。何でこんな物が私の元に送られて来たのだ? サーバーがバグった? それとも、何処どこぞの局員が慌てて、とちりでもしたのか?

体を反らして頭をひねりはしたものの、かの有名なシェークスピアの『ハムレット』の台詞ロレンテクストごとき衝動に駆られた。見るべきか、見ざるべきか、それが問題だ、などと悩む私を嗅ぎ付けたか、脳裏に突如として悪魔メフィスト フェレスが現れる。彼と契約したからには、もう何も怖いものは無い。私はタブレットの画面に見入った。


【スネグラーチカに関する報告】

先ず始めに、この事に関する事項は極力、ではなく決して外部に漏らしてはいけない。陸軍の士気を減退させるばかりでなく、帝国内にける我が王国の権威をも脅かしかねないという事を肝にしかと命じなければならない。事は重大なのだ。万が一、この事実が国民の耳に漏れ伝えられてしまったら、


「先程から手が止まっているぞ、シュライベン少尉」

「うっ」

不覚にも、班内で最も厄介な相手に背後を取られてしまった。

「どれどれ」

と、ウッベン大尉が私のタブレットを覗き込む。生きた心地がしない。もう、メフィストに地獄に連れて行ってもらいたい心境だ。

雷が落ちると覚悟したのだが、大尉はタブレットを手に取ると、私には目もくれず、黙って班長室に消えて行った。

そして、ものの一分もしない内に、大尉は班長室から出て来た。

「シュライベン少尉っ、班長がお呼びだ!」

その、わざとらしくも短く切った語気にくすぐられでもしたのか、その場に居合わせた班員の誰かの鼻息が、静まり返った室内に響き渡った。

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