愛とは罪なものなのです

「くっ…」

後ろは壁、そして喉元には研ぎ澄まされているナイフ。そのナイフを突きつけてるやつフードを被って顔は見えない。たぶん視覚効果を付与するアイテムだろう。第1の街は鍛冶、第2の街は衣服装備をメインに売られているらしいが、相当なレアアイテムだろう。おっと、分析してる場合じゃなかった。この世界でも現実同様に首などの急所を切断されると即死だからな。かなりまずいという訳だ。

「おまえは誰だ。何故俺を襲う?」

「…」

「目的があるなら教えてくれ叶えられることなら何でもしよう」

ここはまず穏便に、ことを荒立てないように。

「…私がわからないの?」

「え?」

「私はこんなに頑張ったのに。強くなって振り向いてもらおうとしたのに!」

まさか…この声は…

「私お兄ちゃんにまとわりつく虫を殺すためにずっと1人でダンジョンに籠ってここまで強くなったよ?」

「春奈?」

「そうだよお兄ちゃん。春奈だよ?お兄ちゃんのことが大好きで、お兄ちゃんが愛してる春奈だよ?」

フードが脱げて春奈の顔が見えた。その春奈が、どうして俺にナイフを突きつけてるんだ!?

『雷斗さん聞こえますか?』

サハリンか、助けて欲しいんだが。

『恐らく妹さんの今の職業はアサシン。つまりは暗殺者です。そしてその職業はレベルもそうですが、異常な精神状態をサーバーが感知しないとなれないんです』

つまり、春奈はいま普通でないと?

『まあ見て分かると思いますけどヤンデレですね』

ヤンデレ!?そんな言葉で片付けていいのこれ!?

『解決策としてはですねぇー…そうだ、キスでもしてみたらどうですか?』

はぁ!?実の妹にするか普通!

『ここで妹さんを仲間に出来たらこの先楽なのでは?』

それはそうだが…まあやるしかないか

「ごめんな春奈。ずっと1人にして」

まずナイフを持ってる手を掴む。筋力ゲージからしたら俺の方が上だ。

「俺はもちろん春奈を妹として愛してるし、ずっと一緒にいたいと思ってる」

「…嘘じゃない?」

「ほんとだとも。何ならここで春奈にキスしてもいいぜ?」

「もう…お兄ちゃんのバカ」

俺は立ち上がり春奈を抱きしめ顔を近づけた。もう少しで唇が触れる――はずだった

「女の匂いがする」

「え?」

気がつくと既に俺の腹にナイフが刺さっていた。

「お兄ちゃんの中に女がいる。出てけ…出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ!」

痛い痛い痛い!そんなにナイフを押し込まないで!普通に痛覚あるんだから!というか、怖い!もしかするとだけど通信してるサハリンに気づいたのか?

「雷斗!一旦引くよ!」

俺は龍也に抱えられて屋根まで飛び上がった。

「転移門まで行って1回拠点に戻ろう。あの春奈ちゃんは今は話が通じない」

「ちょっとゆっくり走ってくれないか?ナイフが腹に刺さりっぱなしで痛い」

「いや、そうも出来ないかも…後ろ」

そう言われて振り返ると、春奈も屋根の上を走って追いかけてきている。目が虚ろに見えるのは気の所為と思いたい。

「お兄ちゃんをかえせぇ!このお邪魔虫がぁ!」

春奈ちゃん、そんな汚い言葉遣いはいけませんよ?お兄ちゃん怖くて泣きそう!

「もうすぐ転移門広場だから我慢して!」

アサシンスキルのせいか、春奈のスピードが尋常ではない。距離を詰められている。

「雷斗、跳ぶよ!」

屋根から広場の中央目がけて大ジャンプをする。少しして春奈も屋根を離れ直ぐに着地。地面を蹴って俺らのすぐ下に来た。ていうか、殺気がすごい。

「龍也!」

「わかってる!…スキル…疾風迅雷!」

んにゃ?それ初めて聞いたぞ?そんなの取得してたのか?と思ったら何も無い空中で龍也の体が加速した。腹のナイフがなかなか抜けず刺さったままで痛かったが、ここは我慢するしかなさそうだ。春奈の方を見ると俺らが加速したことに少し驚いた表情だったが、直ぐに足を早めた。

「このまま転移門に突っ込むよ!」

「了解!」

加速したおかげで距離的に転移門に着地できる。これなら逃げ切れそうだ。

「3、2、1!」

ガシッ

「あれ?」

龍也の体と、俺の上半身が転移門のワープホールの中に入ったのだが、足が入る前に春奈が俺の足首を掴んでいた。

「しまった!」

春奈はまだこちらの拠点には来られないからワープホール内には入ってこられない。ここを何とか振り切ればっ!

「春奈…すまん!ウィンド!」

風で春奈を引き剥がすことには成功したが、どうやら俺の靴も巻き込んでしまったらしい。まあ村人のやつをコピーしたものだから魔王の物的証拠にはならないだろう。



「なんとか逃げ切れた…」

「雷斗、まずはそのナイフをどうにかしようか。痛々しくて見てらんないよ」

そういえばそうだった。魔王は痛覚パラメーターが普通よりも低く設定されているらしく、俺への運営の配慮とのことだ。しかしゼロではないため、かなり腹が痛む。

「あれ?これ全く抜けないんだが」

まるで身体の一部であるかのようにナイフが入り込んでいる。

「ちょっと待ってね。もしかしたら…」

と、龍也がナイフのステータスを調べると、

「まずいな、これ相手が死ぬまで剥がれない『巻き添え』が付与されてる」

「なら私に任せてください!」

と、サハリンがやって来た。なるほど、運営権限で引き剥せるのか。

「いえ、普通に魔法使いますよ?」

え?

「まず腐敗魔法をかけて…」

俺の腹に触れた途端、肌の色が黒くなりポロポロと崩れてきた。

「ちょちょちょちょ!腐ってる!腹腐ってる!」

「分かってますよ?腐敗魔法ですから。で、ナイフを抜いてっと」

するっとナイフが腹から抜けた。痛みも何も無い。そりゃあ腐ってるからな。

「あとは、修復魔法で元通り。はい、完了です」

確かに…ナイフは抜け、腐り落ちていた腹も元に戻っていた…が…

「もう少しやり方ってもんがあるだろぉ!」

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孤独で退屈な魔王始めました 茶々 錦 @nisiki1125

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