祭りは楽しむものなんです

さて、祭りの前日になったがそれまでにしたことと言えば武器の練習。それだけだ。おかげで槍でも一点を狙い続けることが出来る。なんなら投げても当たるぜ?…それはともかく、龍也に色々収集を頼んでおいた情報によると、祭りの主な開催地はもちろん二つの街だが、その間の道とかダンジョン全てに祭りクエスト用に出現しているモンスターが居るようだ。恐らくミッション性があると思われる。あと、2つの街にそれぞれ配置されてるNPCの場所と細部までの地図も完成した。ちなみに春奈は既に第2の街にたどり着いてるのを確認したようだが、どうもパーティとかギルドには関わらずずっと1人で進んでいるらしい。まあソロという楽しみ方もあるが、もともと一緒に進む予定だったから罪悪感が残る。なるべく早く説得してこちら側に入れたいところだが…

「雷斗、最後の情報なんだけど、現在のプレイヤーレベル最高は――」

勇者陣営の強さもそれなりに調べてもらっていた。

「ぶっちぎりの83レベルでステータスは今の雷斗の半分近くに登り詰めている。そしてその勇者と僕は会っていたんだ。雷斗もよく知っている…」

…え、まさか。

「春奈ちゃんだよ」


祭り当日、俺は転移門から第2の街へ向かい、祭りクエストを楽しむプレイヤーの1人を演じていた。演じていたというのは、クエストを進めたら俺が不利になるからな。なるべく自然にかつ進めないように、ダンジョンや街を散策している。自分で言うのもなんだが、ステータスが高すぎるもんだから人前でモンスターを狩るのは気が引ける。

「雷斗、そろそろ春奈ちゃんを探し始めた方がいいんじゃないか?」

おっと、そうだった。なるべく早く春奈をこちら側に付けておかないと、後々やばい気がする。兄貴の勘だが。

「春奈と会ったのは第二の街でいいんだよな?」

「うん、僕ががちょうど第二の街に着いたところで、同じタイミングで街に入ってきたらしいから、まだ先には進んでないはずだよ」

結局あれから何度か電話したが1度も出ない。というか意図的に切られてる気がする。

「とりあえず街をぶらぶらするか…と言ってもかなりでかい街だからなぁ。大通りから見ていくか」

「あまり表に出過ぎないようにね。既に情報を持ってる人がいないとも限らないから」

さすがに、始まって三時間しか経っていないからそれはないと思うが、そのうち誰かしら情報を得る人はいるはずだ。

「あー、テステス、雷斗さーん聞こえますかー」

なんだぁ?いきなりサラリンの声が頭の中に聞こえてきた。

「あ、聞こえてる感じですね〜。いざと言う時のために直接回線を開かせてもらいました。いつでもわたしとおしゃべり出来ますので何かあったらなんなりとお申し付けくださいね〜」

別に常時喋りたくもないのだが、ていうか、ずっと会話が筒抜けってことか。

「まあ常識は持ち合わせておりますので、下の世話とか自家発電の時ぐらいは切りますよ」

「余計なお世話じゃい!そのくらい我慢できるわ!」

「我慢なんだね…この世界じゃ必要ないよ、雷斗」

「うっせ、俺の勝手だ」

「さて雷斗、君も気づいてるかい?」

「さあな、ストーカーとか今どきいるんだな」

魔王側に使えるスキル気配察知。これは応用すると自分達に向けられた意識を感じ取ることも出来る。どうやらこの通りのどこかから見られているらしい。

「次の路地に入るぞ」

「了解」

円形の街に張り巡らされている狭い路地、そこなら隠れにくいし、戦うにしても邪魔が入らない。

「走れ」

角を曲がった瞬間に走り出し、さらにその次の角で曲がり気配を消して潜む。これもスキルのひとつだ。

「さて、誰かなー早速僕らを付け狙うのは」

「春奈って線もあるだろ。向こうから来てくれたら有難い」


…どうしたことか、いくら待っても人ひとり通らない。

「諦めたか?」

「そうみたいだね。僕らが気づいたことに気づいた、ってところかな」

「ま、追いかけられないに越したことは――」

「お二人共!後ろに反応!」

「なっ!?」

振り向いた時には既に龍也は路地の奥に突き飛ばされ、俺はフードを被った何者かに喉元にナイフを突きつけられていた。

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