魔王は意外と暇なんです

俺らはアマイモンの勧めにより、得意な武器を選ぶことにした。と言っても魔王の立場としては多くの武器を使えた方がいいとの事で、片手剣、両手剣、槍の3つを扱う。ルシュフェルこと龍也はそのうち諜報活動ということで春奈の捜索を頼むから、短剣を添えておくと共に槍を鍛錬し始めた。

のだが…

「いやこれきつすぎないか!?」

休憩時間に龍也と話していたが、ゲームなのに疲れる。精神的な疲れがアバターに影響しているのだろうか、腕と足の筋肉が痛い…。現実世界ではこんな痛みが存在するのか?アマイモンの特訓は至って単純。どれだけ正確に一点を狙えるか。彼が用意した的には1つの傷があった。恐らくアマイモン自身もこの特訓をしたのだろう。とても正確だ。

「閣下の攻撃力はさすがと言ったところですが、それが相手の弱点を狙えなければ意味がありません。勇者共は魔法で自身の体を一部無敵にします。その時に弱点をつくことが勝負の鍵です」

との事だ。こいつは本当にNPCなのかという疑問を抱くが、俺を強化してくれることには代わりない。ここは素直に従って鍛錬しよう。的の同じ場所に連続で当てることで的にヒビが入り、いつかは崩れるらしい。だがコンボ中に1回でも外すと元通り。これを各武器で1回ずつ崩すまで。とてつもなく大変な特訓というのはおわかりいただけただろうか。

「僕の短剣は意外と簡単だけど、槍は一点がとてもシビアだからね。狙えるようになるのはとても時間がかかる。まあ、勇者はまだ第2の街にもたどり着いてないみたいだから、気長にやろうよ」


―――「ふむ、ルシュフェル殿は短剣で成功、閣下は両手剣で1回成功ですな。この短時間でお二人共1つずつ崩すとは、さすがと言わざるを得ません」

あれ?意外と高評価?

「ですが、見るところによるとその他の武器は中々狙いづらいようですな。今日はここまでにして、明日は私がそれぞれの武器の扱い方を教えさせていただきます。今日はゆっくりとお休みください」



「うへぇ〜疲れた…」

疲れなんて感覚は実際のところバーチャリアルに来てからは感じたこともない感覚だが、ここに来て現実世界と似たものを反映させるとは…運営も考えたな。つまりは長時間連続して攻撃ができないということだ。

「お疲れさまです〜疲れなんて久しぶりすぎる感覚でしょ〜」

「おう、久しぶりすぎてて忘れてたわ。これもパラメータ次第で変わるんだろ?」

「そうですね、現時点であなたや龍也さんは初期勇者の10倍くらいですかね」

「え、そんなにあるの?強くね?」

「いやいや、勇者は成長しやすいですから、人によってはここに来る頃は20倍にはなりますよ」

そうか、向こうは複数で行動するのが普通だから自分の得意分野に経験値を振ればいいんだよな。つまり俺はボス戦だから1人で大勢を相手しなければいけないのか。

「なあサハリン、このゲームって意外と簡単すぎる気がするのだが…」

「それはあなた次第ですよ。祭りの中で見つからなければ見つからないほど、あなたの弱点は隠されて行くのですから」

「そこなんだよ」

「何がです?」

「俺を見つけることって意外と難しいんじゃないか?しかも見つけるって言うのも定義があやふやだし」

「あー、そこら辺はまだ詳しく話してなかったですね。勇者側は祭りの最中にとあるクエストを受注するんですよ。内容は人それぞれですがどれもゲット出来るものは同じです。その報酬はあなたを魔王と見破れるもので、水晶だったり方位磁石だったりあなたに反応するので、それで魔王を見つけることができます。そして見つける、というのはあなたを魔王と確認したあとにその事が確認できる写真を撮り街の情報開示NPCに見せれば、弱点がわかるということです」

うまく出来ているのか出来ていないのか分からないが、元々はNPCが魔王として参加しているはずのこのゲームは、俺が魔王になったことで難易度が上がっているはずだ。ならばこっちもそれなりの情報を集めないとな。

「龍也、いくつか頼みたいことがあるんだが―」


「――おっけー。僕の初仕事だから完璧にしてみせるよ」

「ありがとな、じゃ頼む」

俺が祭りに参加するにあたって必要なことは龍也に頼むとして、1つ気になることがあった。

「サハリン、俺って魔王の仕事何もしてないけど、何かすることは無いのか?」

「んー、ないですねー」

「いやいや、何かあるだろ〜魔界の政治とか統治とか」

「…じゃあ玉座に座ってみてくださいよ」



「……………………………うん、よくわかった」

暇だ!龍也の言っていた通り勇者はまだ当分ここにはたどり着かないし、政治とかいらねえよ、NPCが勝手にやるもん!あれはアニメとかで魔王の描写があるから政治したりとかしてるけどさ、これゲームだから動く必要が無いんだな。祭りで仕事かあるだけマシってもんだ。

「ね、何もする必要なしでしょ?」

「ああ…ゲームの魔王ってずっと孤独に玉座に座ってたんだな…可哀想に…」

ピロン♪

ん?何かメッセージが…

【第1回祭りのお知らせ】

《魔王の弱点を知るチャンス!》

現時刻より2日後、第1回の「祭り」を開始いたします。チュートリアルで説明させて頂いた通り、クエストをクリアし魔王を見つけるとボスの情報が開示され、来たるべき決戦を有利に進められます。開催範囲は第一から第二の街まで。テーマは当日発表となります。


おー、ついにきたか。テーマってなんだろな〜魔王が言っちゃなんだが、楽しみになってきた。

「あ、雷斗さん、最初のテーマは【女神アルテミスへの信仰】らしいですよ〜」

な、なんで言っちゃうの…あと信仰ってなんだよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る