魔王はトレーニングをするものです
えっと、状況を説明しよう。俺らは狭い路地にいたのだが、いつの間にかそこは円形の広場になっており、俺らはその中心にいる。周りの家は全壊のものは半壊のもの色々だが、とりあえず現実でいう画像で見た地震というものの被害に似ている。――これは俺がやりました
「え?これ何がどうしたの?」
「あのですねぇ、あなたはこれでも魔王ですよ?タダでさえバカでかいステータスを持っているのに、それを反発するシールドに打ったら衝撃は周りに行きますよ。あとその武器、見た目は初心者用武器ですが中身は魔王専用の最上級大剣と同じですから。扱いには注意してくださいね」
「それを早く伝えろって言ってんだろ!大事なことはすぐ報告っ!」
「雷斗、今すぐここを離れたほうがいい。人が集まってくる」
確かに、路地の奥から誰かが走ってくる音が多数聞こえる。
「まずいですね、挟まれていますよ、これ」
「え、どうすんだよ。ただのプレイヤーとしてやり過ごすか?」
「いえ、ここは上に逃げましょう。龍也さん、雷斗さんの腕にしっかり掴まってください。では私も失礼して...」
えちょちょちょ待って!サハリンは胸を押し付ける勢いで掴まってくるし、龍也は鬱陶しいくらい顔が近い!
「じゃあ、あの屋根に向かってジャンプしてください」
とサハリンが指定したのは20メートルくらい先にある二階建ての家の屋根。いや、無理でしょ。普通人間はあんなところ飛べねえって。あ、俺今普通じゃないのか。うっかりしてたぜテヘペロ。
「じゃあ行くぞ、3、2...」
「あ、ステータス考えてくださいね」
だから言うの遅い!既に俺は足に力を入れており、最大の力で飛んでしまった。
「え」
指定された屋根などとうに超え、さらに5つほど家の上を通過した。そして斜方投射の最高点に達したようで、どんどん下降していく。
「ってやべえ、このスピードで着地したらまた家壊しちまうぞ!」
「しょうがないですねえ。ウインドっ!」
すると俺の足の下に空気の流れが生まれて、速度が緩やかになっていった。
「お、おぉ...魔法使えるのか...」
なんとか屋根の上に着地できた。
「この世界は剣とか槍とかの武器に魔法を付与して戦うのですが、武器のみでの攻撃ができるように、魔法のみでも使えるんです」
「なるほど...連携とかの相性も考えて魔法を覚えれば有利に戦えるってことですね」
「その通りです。属性もあるのでモンスターによって変えれば攻撃力がアップします。では、とりあえずお二人にはその特訓をしてもらいますので、一旦城に戻りましょうか。大ジャンプのおかげで転移門近くに来ましたし」
気がつくと、この家の下に転移門があった。サハリンは最初っからこの方角を指していたわけか。こいつ大事なことを言うのは遅いが賢いんじゃね?
「で、特訓ってのはどうやるんだ?」
戻ってきて早速特訓ということで、俺と龍也は城の庭に来ていた。
「この城には四天王がいるんですが、それぞれ専門があるんです。剣や槍など近接武器を得意とするアマイモン。斧やハンマーなど大型武器を得意とするオリエンス。弓や投げナイフなどの遠距離のパイモン。そして魔法のアリトンですね」
「四方を司る四代悪魔ですね。武器の配当は適当のようですが」
「お前はのうレジか!」
のうレジというのは聞いたことにはすべて答えてくれる万能アプリだ。
「この位は普通だよ。今の時代必要なのは技術よりも知識だ。技術は現実サイドの人達が何とかして、僕達がそれを発展させる。雷斗も何か得意分野を作っておくべきだよ」
「いや〜そう言われるとねぇ〜」
ないこともないんだが。
「じゃあ、何から始めます?1日で全部する必要はないですし、勇者側がこっちにたどり着くのは相当先ですよ〜」
そう考えると、今はとてつもなく暇ということか。ならまずは基本の近接武器を習うか...
「俺は近接にするけど、お前は?」
「僕も近接かな。これができないとどうにもならないし」
「わっかりましたー!ではアマイモンの部屋に参りましょー!」
ギィー...
大きな扉を開けると円形の広い部屋があった。そしてその中央に、とても鍛えているのがわかる人、というか悪魔が仁王立ちしていた。
「おや、これは閣下。ご機嫌麗しゅう。如何程のご要件で?」
と、野太い声で聞いてきた。するとサハリンが、
「この人たちは高度なNPCですのでちゃんとした受け答えをしてくださいね」
と言ってきた。どうしてこの人はこうも大事なことを言うのが遅いのだろうか。おかげで俺は何にも考えずに来てしまった。
「閣下?」
「あ、あぁ、そのだな、お前の得意とする武器の技術を教えて貰いたくて...な」
「ん?...なにを仰っていられるのです?私の技術は閣下からのものですが...まさかあなたは偽物ではあられまいな?」
まずい、何かいい言い訳を...そうだ!
「その事なんだが、最近勇者側が動いてきただろ?それで私も強化するため自身を再召喚しようと思ったのだよ。だがそれが失敗して技術が抜け落ちてしまったのでな、お前なら適任だと思って頼みに来たのだ」
最近見たアニメーションの設定を持ってきただけだが、何とか誤魔化せたかな?
「...」
ありゃ、ダメだったか...?
「これはとんだ失礼を!やはり閣下はただの王ではありませぬな!失敗とは言えど自らのさらなる強化を求めるとは、このアマイモン改めて尊敬致します!わかりました!あなたから頂いた技術はそっくりそのまま閣下に返させて頂きます!」
通じただと...我ながら自分の臨機応変さに驚いた。
「ちなみに閣下、後ろのお二人は?」
と、指したのはサハリンと龍也。これはどうしたものか…これ以上嘘をつくとこじれそうだ。
「僕達は、魔王様のサポートのために召喚されたものです。僕はルシュファーと言います。こちらはサハリン。以後お見知りおきを」
「なるほど!ではそのお二人も私が伝授すれば良いのですね?」
「あ、私はいいです。業務担当なので」
「そういうことだ。私とルシュファーだけ頼むよ」
「わかりました!お任せ下さい!今まで以上の閣下に育てあげさせて頂きます!」
そうして、俺らの、本来魔王がするはずのない鍛錬の日々が始まった。
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