魔王なのに仲間を集います

俺が魔王になっている事に気づいた頃――


【第1都市トルギス】

「あっれー?お兄ちゃんいないなー。私より先に入ってるからもう私のことを待ってくれてるはずなのにぃー」

佐藤雷斗の妹、佐藤春奈は無事最初の街に入っていた。

「しょうがないなー、私がお兄ちゃんを探してやるか〜」

と、街内を歩き出したはいいものの...


「いないじゃん!」

いるはずもない。最終ボスの部屋にいるのだから。

「もー、私と一緒に冒険してくれるって約束したのにー!」

「あれ?春奈ちゃん、こんな所で一人でなにしてんの?」

と、声をかけてきたのは雷斗の親友の三神龍也。

やっぱいつもイケメン...あぶないあぶない。私はお兄ちゃん一途だから。

「お兄ちゃんが先にこの世界に来てるはずなんだけど居ないんですよ。龍也さんしりませんか?」

「いやー、こっちに来てからは見てないな。電話はしたの?」

「あ...」

忘れてた。この世界もバーチャリアルだからすぐに電話できるんだった。

「電話してきます...」


そのころ雷斗は...


【魔王の部屋】

「では、今からこの世界の説明をさせて頂きます」

サハリンが、俺が魔王をするにあたって不自由のないように説明をしてくれるようだ。いわゆるチュートリアルだ。

「お願いします...」

もともと勇者ポジになることを前提にきたもんだから、魔王やってくださいといわれてもよく分からないのだがな。まずシステム的な話は大体理解出来た。

「――次にこのゲームのコンセプトですが、題名はご存じですか?」

「えーと、Hundred Anniversary Questだろ?バーチャリアル100周年用の」

「何言ってるんですかバカですか?それならHundredじゃなくてA centuryにしますよ」

いきなりの罵倒に文句を付けたいところだが抑えておこう。

「100の祭り。それを元にこのゲームは進んでいくんですよ」

「祭りって言うのは具体的にはどんなのが?」

「そーですね...例えば最初に運営が考えているのは――」

〜♪♪〜

「ん?あ、妹からだ。ちょっと電話してきます」

「はいどうぞー」

すっかり春奈の事を忘れていた。今頃一人で俺を探してるはずだ。

「あー、ごめんな春奈俺ちょっと事情g」

『なにしてんの早く私を迎えに来なさいよ!』

おー、怒ってる怒ってる。まあ、とりあえず事情の皆を話せばわかってくれるだろう。

「えっとな、俺は今運営の手違いで魔王」

「すいません!それは内緒にしてといてください!」

と、サハリンが小声で言ってきた。そうか、ここで俺がばらすとゲーム性が崩れる可能性もあるのか。

「う...運営の手違いで第5都市に飛ばされててな。まだ転移を使えるレベルにまで行ってないからそれまではお互い別行動でいいか?」

このゲームには転移門による転移と、メニューから経験値を消費して行う転移がある。転移門はすべての都市にあるが、行ったことのある都市にしか行けないので、本当に俺が第5都市にいるなら第1都市には行けない。だが経験値による転移は決まりとして「最後に入った都市より小さい数の都市のどこでも」転移が可能なので、転移可能なレベル5まで上げればダンジョン内でもすぐ抜け出せるのである。...先に説明聞いといて良かった〜

「あれ、春奈?おーい」

『お兄ちゃん。今女の人といるよね?』

「え?」

『しかも一緒にいることを内緒にしてくださいって聞こえたけど』

oh......あの小声を聞き取ったか地獄耳妹よ。しかもいらない解釈入ってるし。

「いや、この人は運営の人で」

『しかも街にいるのにそっち静かすぎない?』

もーっ、どんどん誤解されてく!ちょっとサハリン助けろ!というアイコンタクトを送ったが、(え?知りませんけど)って顔してやがる。

「すぐに会いに行くからさ、少しの間待っててくれよ」

『うんうんなるほど。じゃあその少しの間お幸せに浮気者のお兄ちゃん!』

〈通話終了〉

えぇー...全然信じてねぇ

「お兄ちゃん想いの妹さんですねぇ」

「どこがだ!どんどん話がこじれて行って終わったよ!」

そのうち春奈とは会っとかないとなぁ。でもずっと一緒だと魔王としては動けないし。いや、いっそのこと、

「なあサハリン、今勇者側のプレイヤーを魔王側としてプレイさせることは出来るのか?」

「あー、可能っちゃー可能ですけどー、そんな物好きいます?」

「とりあえず妹だけはこれ以上話を悪化させないためにもこっち側にいた方がやりやすいんだけど」

「うーん、わかりました。データをいじらないといけないので直接会わなきゃいけないんですが、まずは雷斗さんを勇者側の人間らしい格好にしなきゃ行けませんね」

「そんなことが出来るのか?」

「これはさっきの100の祭りに関係してるくんですけど、その祭りには魔王も参加しているんですよ。それを祭り中に見つけられると魔王の弱点が分かる。そんな仕様になってるんです」

「つまり、それに俺が行くことがあるってことか」

「もしそこで倒されでもしたらゲームクリアになってしまうので注意してください」

「そんなにリスキーなの!?」

うっかりボロが出て後ろから切りつけられたらその瞬間ゲームが終わるって魔王なのにかなり崖っぷちな...

「で、話を戻しますけどその機能を使ってあなたを勇者側の人間っぽく出来るんです。何かお好みの格好とかありますか?」

格好か...恐らくまだみんな初期装備ばかりのはずだから、強そうな装備で行くと怪しまれるな。

「初期外装にロングソード位の弱い武器でお願いする」

「結構賢い判断をしますねぇ。わかりました。じゃあその玉座に座って下さい」

「ほいほい」

「はい終わりました」

速っ!確かに禍々しい魔王の格好から弱そうな勇者の格好になっている。玉座が更衣室のようなものか。

「では、その妹さんと連絡取れますか?」

さっきの怒り具合からして少し不安だが電話しないことには始まらない。

〈―呼び出し中―〉

『ただ今電話に出ることができません、浮気者のお兄ちゃんとは話したくないので現在繋がりません』

自分の肉声で何世紀か前の電話サービスの真似をするな!

「とりあえず聞いてくれ。今からそっ」

〈通話終了〉

全然聞く気ねえじゃねえか...

「ありゃー、ダメでしたか。なに妹さん怒らせてんですか」

「お前のせいでもあるだろうが。もっと早くに内密にしておくことを伝えておけよ」

どうしたものか、春奈に用途を伝えられればいいのだが...

「あ、メッセージ機能つかえば良いのか」

文面を送れば流石に読んでくれるだろう。

「...あれ?なあサハリン、メッセージ機能はどこにあるんだ?このゲームに実装されてたと思うんだが」

「魔王から勇者にメッセが送れるわけないじゃないですか」

「電話はできるのに!?」

「あれはバーチャリアルをそのまま引き継いだものですから。家族とかで入る方もいるのでせめてもの配慮です」

「つまり俺からの連絡手段は電話か直接会うしかないと?」

「そうなりますね」

まじですかー。直接会うにしても一つ一つがとても広い都市やそのあいだのダンジョンの中を探すのは無理だ。ここは別のやつに連絡して仲間を増やしておくのが妥当か。確か龍也がいるはずだよな。

〈呼び出し中〉

『やあ雷斗、今君どこにいるんだい?春奈ちゃんが探してたよ』

「春奈と会ったのか!今どこにいるかわかるか?」

『さっき凄い怒った顔で街を出てったから、今頃アユダの森じゃないかな?』

アユダの森は第1と第2都市の間か。やはり既にダンジョンに入ってるとなると見つけるのは無理だな。

「なあ龍也、1つ頼みというか提案なんだが――」


『――アハハ、君が魔王なのか。それで僕もそっち側の人間になれと』

「そういうことだ。無理にとは言わないが俺一人だと色々困るんだよ」

『おーけー、そっちの方が面白そうだし仲間になるよ』

「ほんとか!それは助かる。じゃあ今からそっちに行くから」


【第1都市トルギス】

俺らはなるべく目立たないように路地裏で待ち合わせた。龍也の方が早く来ていたようだ。

「よっ、悪いないきなりの話で」

「いや、僕もこのゲームがありきたり過ぎると思ってどうしようか悩んでいたところだったから」

どうするつもりだったんだろう...

「意外と魔王の格好は普通なんだね。もっと派手な格好で来ると思った」

「これは変装だ。そのままで来るわけがないだろが」

「えーっと、そろそろ話を進めてもいいですか?」

おっとこいつの存在をわすれてた。サハリンも駆け出し冒険者みたいな格好をしている。この方が目のやり場に困らないんだが...

「あなたが運営の人ですね。初めまして三神龍也です。これからよろしくお願いします」

「あ、ご丁寧にどうも〜サハリンと言います〜。雷斗さんと違ってイケメンでめっちゃいい人そーですね〜」

「そりゃ悪かったな!で、具体的にはどうすんだ?」

「まずは龍也さん、メニュー画面を出してください」

「了解です」

シュン

HAQデザインのメニュー画面が可視化されて出てきた。

「で、あとはこれを繋いでっと。プログラムを流せば...」

ピロン♪

「ん?俺の方にメッセが来たぞ?」

『ルシュファーが配下になりました』

「成功したみたいですね。龍也さんをルシュファーとしてこっち側の人間にしました」

「具体的には何が変わったのですか?」

「達也さんが持ってるその剣で雷斗さんを殴ってみてください」

「え、こうですか?」

こいつ躊躇いもなく切りつけてきやがる!避けるまもなく俺の首に剣先が...

ピキンッ

「あり?」

目を開けると俺の首に寸前で剣が止まっている。

「なるほど、よく分かりました」

何がどうなってんの?

「もともと勇者は勇者側の人間を闘技場以外では攻撃できないようになっているんだよ。それは魔王側も同じで、仲間は攻撃出来ないようになっているんだ。そうですよね?」

「はいその通りです。理解が早くて助かります〜」

「じゃあ俺が龍也を攻撃しても何も起きないのか?」

「そうなるね」

んじゃあ1つ試してみるか。この剣は初心者装備のロングソードだから当たってもそこまでダメージにはならない

「よっと」

「あ!ちょっ!ストップ!」

「え?」

ドッ、バーーーン!

...なんということでしょう。私が剣を振っただけで周りの家にヒビが入り、龍也の保護シールドに触れた瞬間、路地裏だった場所が広場になってしまいました...

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