孤独で退屈な魔王始めました

茶々 錦

魔王になりました

――西暦2500年、地球の増えすぎた人口問題を解消するべく開発されたもう一つの世界、『バーチャリアル』。この世界はプログラムがあれば魔法でも超能力でもなんでも実現できる。十歳になるとこの世界で暮らすかどうかを選べる。大体の場合は子供を産んで一緒に電脳体となる場合がほとんどだが、永遠の生活を得るとともにその家系はその代で絶えることを意味する。これが国際政府、昔で言うところの国際連合の考えた解決策だった。2400年代に開発された、人間の脳の完全再現。そして成長の未来予測がこの企画を促進させた――


「そして今、『バーチャリアル』100周年を迎え、新たな世界が生み出されようとしています」

最近の情報番組はずっとこの話題だ。開始当時は現実世界で『バーチャリアル』肯定派と否定派で別れ騒動もあったが、今はその安全性を認められてどんどんこの世界に人が入ってくる。西暦2600年―電脳暦100年に新たにサーバーを増やして作られた世界。みんなそれに釘付けだ。

俺か?楽しみに決まっている。何せ、俺も今からその【ゲーム】の世界に行くのだから!


「じゃあいってきまーす」

「行ってらっしゃい。たまには連絡よこしなさいよ」

「あ、待ってお兄ちゃん!まだ私準備が出来てないから」

「別に向こうで会えるからいいだろ?どうせ最初の設定サーバーで別々になるんだから」

当分帰ってこないのにこのノリである。これが22世紀の現実世界とかだったら旅に出る子供のようなものなのだろうか。まあ、すぐに帰ってこられるのだが。

「じゃ、先行ってるから」

シュン

メニューを出して新しく追加されているボタンを押す。周りが暗くなってトンネルを進んでいる感覚がした。明るくなったそこは...


「あれ?」

話によると簡単な白い空間にディスプレイがあるはずだったんだが、俺がいるのは歪んだバグのような場所だった。

ピコン

「ん?運営からメッセージ?」

開くとこんな文章が書かれていた。

―予想外の事態によりあなたが予約していたアカウントがあなたの個人コードを受け付けなくなっています。こちらで用意したアカウントに転送させて頂きますので、よろしかったら下記のコードをタップしてください。―

それと、『account@characterbosssatan』というかコード。まあ、これでゲーム世界に入れるなら問題ない。...安易にそのコードを読まずにタップしたのが間違いだったと、その時の俺は考えもしていなかった。


『welcome to Hundred Anniversary Quest!』

目を開けると、その文字が目に映った。通称HAQと呼ばれる何のためのゲームか丸わかりな題名のこの世界は、何世紀か前に流行った「勇者になって魔王討伐」がメインのものだ。恐らくこれから職業選択が出来るはずなんだが...

「なんか...暗くね?」

周りを見ると、薄暗いし誰もいない。しかも俺が座ってる椅子は...玉座?なぜ駆け出し勇者の俺が玉座に座ってるんだ?

「あ、すいませーん、遅くなりましたー。」

縦に長くて巨大な部屋の奥から女の子が走ってきた。...ちょっと待て、あの子何であんな際どい格好してるの?!

「私運営から来ました。サハリンと言います。佐藤雷斗さんですね?」

「はい...そう何ですけど...あの、もう少し露出を抑えた格好を...」

「え?あー、申し訳ありません。これ魔族の一つサキュバスのアカウントなのでどうしようもないんです」

「魔族?なんで魔族が勇者側に?」

「何言ってるんですかー。ここは最終ボスの部屋ですよ〜?ほら、鏡ありますのでどうぞ」

目の前に出現した鏡を見た時、俺は全てを察した。これでも勘は鋭いほうだ。そこに居たのは、禍々しくもクールでカッコイイ鎧をつけた...

「なんで俺魔王になってんの!?」


正真正銘、PVで見た魔王の格好をした俺だった

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