2 毎日が祭り
どういう生活してんの? ってよく聞かれる。
例えば深夜一時に晩飯の写真上げてたりとか、フェイスブックに3日連続で「今日大阪」「五反田原価カフェの鴨うまい」「伊香保にいる」とか投稿してたり、平日のド昼間に「休日だから死ぬほど寝た」とか言ってるとそういうふうに聞かれる機会が多くなる。今の時代は簡単に自分の生活を他人に公開できるので、こういうことがある。どういう生活もなにもなくてこういう生活なんだけどこういう生活です。こういう生活なんだが、世間的に言うとエンターテイメント性に溢れた生活ということになるのだろうか。そんな風に思ったのでしたためてみることにした。
エンターテイメント。
それは人生において大切な要素である。
驚きと喜び。そして期待とそれを超えていく満足。娯楽の無い人生というのはただの単なる時間の経過であって、起伏があって初めて人間は生存し得る。
前の話でも書いたんだが俺はウェイターという職業に就いている。バーテンまがいのこともしたりする。
そういう風に言うと、割と勘違いされがちなのが「個人経営のおしゃれなお店で〜? 働いてるんですか〜? そういうイメージ〜」みたいなアレがないでもないんだが普通にホテルのレストランのウェイターなんてマジで会社員である。だから三ヶ月に一回の本社への出張があるし店長が投げ出した地区の定例会にも出席するし謎の研修にも参加させられる。あと普通に仕事終わりが常に日付後とかそんな感じだとこういう生活になるし「どういう生活?」って聞かれる羽目になる。
で、「どういう生活?」って聞かれると大体俺は毎回「毎日が祭り」と答えることにしている。
祭りだからである。
これほど祭りって言葉の似合う生活してるやつがいるか? いや居ない。それくらい祭り。俺くらいのお祭り男となると自然と日常の方が祭りに寄せてくる。いい加減にしてほしい。
例えば今俺がメイン勤務しているのはとあるホテルの上の方の階にあるレストランなんだが、想像してみてほしい。ホテルの上の方の階のレストランに行くとき、よっぽどのブルがジョワジーな方でもない限りは”非日常”みたいなのを感じるのではないだろうか。
「プロポーズはホテルの上の方の階のレストラン、窓際の席で……」みたいなイメージとかないだろうか。
というか、世間一般として割とそういう場として見られるのである。ホテルのレストラン。つまりお客様一般は『俺は今から非日常を味わうぜ!』みたいな心境でご来店しがちなのである。つまり祭り。プロポーズしがちだしサプライズしがち。バースデーシャンパン開けがち。
言わせていただきたいのだがそんなの一年に一回二回やれば人間十分なのである。毎日ディナーに花束が! とか、嫌じゃん? 食べづらい絶対。今日は無性にカップ麺食べたいなみたいな日絶対あるのに舌平目のムニエルとか出されたらあーはいうん、うーんみたいな顔になる。なので誰もそんなこと毎日しない。皆わかってる。そんなん毎日したらしんどいじゃんって。偉い。さてそんな毎日サプライズを味わっている人間がここにいる。俺です。
正確に言うならば俺たちであって、もっと正確に言うならばサプライズを”される側”じゃなくて”する側”である。
いや言うてそんな毎日はしないっしょ? と思われるかもしれない。まぁ確かに毎日はしない。多少盛った。けど毎週末は確実にしている。
もうサプライズに次ぐサプライズ。記念日に次ぐ記念日。毎日が何でもない日万歳。そんなのが我々の日常なのである。あっちの個室でバービーのぶっささった持ち込みケーキ持って全力ハッピーバースデー歌った後、そっちの窓際三十五番で本日はご結婚十五周年ということでおめでとうございますこちらは当店よりささやかではございますがお祝いのワンップレイトでございます↑をしたかと思えばお祝いの会席で幹事にサロンエプロン引っ張られて「そろそろ花束!」「うっす!」なのである。そしてその裏では厨房に「こんなクソでけぇケーキ入る冷蔵庫の空きねぇよクソが!」「うるせぇよ冷蔵室にでもぶっこんどけよ!」「あれ冷蔵庫じゃなくて冷凍庫だからな?! 凍るだろ!」「凍らせとけバーーーーーーカ!!!!!知るか!!!!」からの「ッハァー?! 予約時に言えよサプライズプレートなんて作れねぇよ何でメインプレートにチョコで名前書かなきゃいけねぇんだよ照り焼きにチョコつけるバカどこにいるんだよ」「客がつけろっつってんだよ知らねぇよチョコペン貸せ俺が書くよ」からの「お前字ヘッッッッタクソかよ俺が書くわ貸せ!」からの「花束冷凍庫に入れたバカ出て来い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」なのである。祭りじゃねぇか。祭りです。
レストランなんかに勤めるもんじゃない。あとマジで皆さんのご想像の倍は全員柄が悪い。馬鹿の集団なのである。
サプライズや記念日の特別な料理。そんなものを一切頼むなとは言わない。
基本的に我々馬鹿の集団は馬鹿なので、バービーのぶっ刺さったケーキも「頭おかしいだろやべぇな」って言いながら尋常じゃないテンションで運ぶし、なんならバービー運びたいっつって普段厨房から出ないバイトまで出てきて総勢十人ぐらいでハッピーバースデーを歌った(野郎ども十人にハッピーバースデーを歌われたひよりちゃん四歳は真顔だった)。窓際三十五番にお祝いのワンップレイト↑にチョコペンで名前を書いた時も、むくつけき男どもが寄ってたかって「奥さんの名前書くなら旦那の名前も書こうぜ」「ハート書こう」「おめでとうって英語でどう書くんだGoogle翻訳誰か」ってああだこうだ言いまくったし、花束は若干シャリッとした。兎に角、基本的には楽しんでいる。何より、そういったサービスをして、心の底から驚き、喜んでくださっているお客様の顔を見ること、「ありがとうございます」と言っていただけることはめちゃくちゃ唯一といって良いプライスレス。買えるものはマスターカードである。
なので、お客様になられる可能性のある皆様におかれましては、ご気軽にサプライズのご相談などをする前に数秒、厨房の後ろとかバックヤードで輩どもがダカダカ走り回っては右往左往する様を少しだけ想像して、ちょっとばかし不手際があったところで笑って「しかたないよね」と言っていただけるだけの心の余裕を持ってからお電話を戴きたい。事前に。事前にである。事前にだよ。出来れば一週間前には言えよ。
いや、零すな 井伊藤里 @sundubu_
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