第23話 伝説
「お、お母様?」
私は夢を見ているのだろうか、亡くなったものだとばかり思っていたお母様が目の前にいる。確か噂ではお父様は叔父との一騎打ちで倒れ、お母様もその時一緒に亡くなられたと言うのか領民の共通認識だ。
私も実際の街でこの噂を耳にしていたから、てっきりそうなのだと思い込んでいたのだ。
「お姉様、お母様は帝国軍の目を欺いてグレアム卿に匿われていたんです」
「えっ、知っていたの?」
「はい、私はセレスティナに聞いていたので」
そうか、私はずっと正体を隠していたから話すに話せなかったんだ。
「リリーナ、ミレーナ立派になったわね」
「「お母様……」」
あぁ、ありがとうございます。お母様だけでも私たちの元にお返しくださって本当にありがとうございます。
ダメだ、ミレーナに泣いているところなんて見せたくないのに涙が次から次へと溢れ出してくる。そんな私たちをお母様は優しく抱きしめてくれる
「さぁ、泣いていないであなた達の役目はまだ終わっていないでしょ。ミレーナはこの地を帝国軍から守り続けなければならないし、リリーナは星槍の継承者としてこの国を取り戻さなければならない。これからより多くの国民を助ける為に今は立ち止まっている時ではないのよ。」
お母様の顔は私たちと同じで涙であふれていた。それでも必死に私たちを奮い立たせてくれているんだ。
私とミレーナはお互い顔を合わせ大きく頷く。
「ミレーナ、この国から帝国軍を追い出すまでこの星槍は預かっておくわ」
「はい、お姉様。私はそれまでにこの地を以前のような笑顔あふれる街に甦らしてみせます」
いずれ星槍はウエストガーデンの地に返さなければならないが、ミレーナならばその役目を立派に果たしてくれるはずだ。
「まずはグレアム卿とゼストを埋葬してあげないとね」
果たして私たち姉妹は彼らからの試練に合格したのだろうか。
「悪いわねこんな時間に集まってもらって、だけど皆んなには話しておかなければならない事があるの」
その日の夜、私は主要メンバーを揃え小さな会議を行った。
「ミレーナは今の国内の戦況をどう思っている?」
「どう、ですか? そうですね、ここウエストガーデンは解放できましたが、サウスパークは未だ帝国軍の手に落ちたままですし、ノースランドはジークハルト様の部隊が大半を取り戻したと聞いております。イーストレイクに関しましては現在帝国軍に寝返ったままだと」
「そうね、それが国民の共通認識ね。だけど戦況は貴方達が思っている以上に複雑に絡み合っているの」
私は一つづつ語り出していく。
「まずノースランドは現在帝国軍と隣国のドゥーベからの脅威にさらされているの」
ドゥーベは長年レガリアと敵対関係にある国、帝国ほど軍政も統一されていないし戦略もそれほど大した事がないが、死をも顧みない攻撃はレガリアの正規軍にとっては中々の脅威になる。
「それじゃジークハルト様の周りは敵だらけではないですが、北はドゥーベ、南は帝国軍、それに東には寝返ったイーストレイクが控えています」
「それは違うわ、イーストレイクは裏切っていない。正確には寝返ったフリをしているのよ」
「それは本当ですか? レガリアの国民が苦しんでいるのに全く手を差し伸べてくれないじゃないですか」
「ミレーナ様、それは違うんです。」
話の途中、間を割って入ってきたのは今の状況を一番よく知っているフィーナ。
「私やお兄様、それにランスベルト王子が何故怒涛の勢いで領土を取り戻して行けたかご存知ですか? それは全てイーストレイクの公子であるエキドナ様が支援してくださったからなんです」
「えっ?」
「私が戦っている時、叔父が話していたを覚えている? この国は聖王国と呼ばれてはいたけど、それはとうの昔に崩壊しているの。一部の貴族は不正を重ね、裏では賄賂や横領が蔓延っていたわ。それを知っていたからこそ帝国軍は攻め込んできたのよ」
あの時、国は帝国軍の動きを把握していた。だけど貴族の中には我が身かわいさに敵と内通していた者が多く、攻め込まれると同時に各地で火の手があがった。
そんな中、真っ先に行動を起こしたのがイーストレイクの公子であるエキドナ様、彼はこの戦争に勝ち目がないと悟った時、武器や軍馬を隠し数多くの騎士を国民の中に身を潜めさせた。そして表面上は帝国軍に寝返ったフリをして水面下ではランスベルト王子達を支援しつつ、反撃の機会を伺っていたのだ。
もちろん帝国軍もエキドナ様を疑わなかった訳ではないが、彼は父親である公爵様と表面上敵対する形をとり、幽閉という形で見事帝国軍の目を欺いた。
現在はイーストレイクの地にも帝国軍が監視のために入り込んでいるせいで、身動きが取れないと聞いているが、それもランスベルト王子がサウスパークを取り戻すまでの間まで。3つの公爵領を取り戻せばあとは王都のみとなるので、その時には本来の姿を取り戻し四方から王都を取り囲む手配になっている。
「それじゃ私たちはその時が来るまで力を蓄えておけばいいのですね」
「そうなるわね、ただサウスパークに向かったランスベルト王子も苦戦していると思うの、私とフィーナはノースランドに戻って帝国軍とドゥーベの対策をしないと行けないから、出来れば誰かが一軍を率いて救援に向かってもらいたい。幸いグレアム卿が鍛えた
この地の防衛も考えて3000騎程は援軍として派遣しても問題ないだろう、あとは誰に指揮を取ってもらうかなのだが、大軍を動かすとなるとその人選は限られてしまう。
「私が行きます。シルメリアとの約束もありますし、
名乗りを上げたのは私の予想通りのミレーナ、だけど
「ダメに決まってるでしょ、公女である貴方がこの地を留守にしてどうするのよ」
全く、気持ちは分からないでもないがミレーナにはもっと他にやらなければならないことが山済みなんだ。それなのに当の本人が領地を空けてどうするのよ。
「だったら誰が指揮を取るんですか?」フン
「まったく何拗ねてるのよ、ローズ……リリーナ様はこう言っているのよ、私に行きなさいってね」
ミレーナを動かせないなら残るは彼女しかいない。
「そういう事よセレスティナ、ランスベルト様とアメリア公女を助けてあげて」
「分かりました、必ずサウスパーク領を解放しこの国から帝国軍を追い出してみせます」
「任せたわよ」
彼女はもう自分の命を懸けてでもとは言わなかった。
恐らく彼女なりに何らかの答えを出してくれたのだろう、私に残されたのは信じてあげる事のみ。
「準、雫、貴方達はどうする?」
この二人はあくまでも私たちに力を貸してくれているだけだ、堅苦しい軍の統制に加える訳にはいかない。
「我らは盟約により、公爵家の方をお守りする役目を仰せ使っております。拙者はリリーナ殿に付いてまいります」
「それじゃ私はミレーナ様の元に留まりますね」
「準が来てくれるなら助かるわ、ノースランドの戦いはこれから一番激化する事になるからね。雫、妹の事をお願いするわね」
「はい」
これで今後の方針は決まった、次に皆んなと会うのは王都奪還の戦いになるだろう、それまでに私はもっと強くならなければならない。妹に笑われないよう星槍の継承者として
―― 一年後 ――
暗闇の中、王都レガリアを見渡す事ができる丘の上、五つの光り輝く武器が辺りを照らす。
「お姉さまお久しぶりでございます」
「久しぶりミレーナ、随分大きくなったわね」
心なしかちょっぴり大人びた妹の姿を見て、懐かしい思いが蘇る。
ここには一年前に別れた懐かしい顔が並び立っつ。
ドゥーベからのノースランドを守る為にフィーナを残してきたけど、今頃皆んなに会えない怒りを敵にぶつけている事だろう。
「よう、久しぶりだな」
「ランスベルト様お久しぶりです」
「全く相変わらずラブラブっぷりを見せ付けやがって」
私とジーク様の姿を見てからかってくる。こんな駆け引きも何だか久々な気がする。
「お互い無事にここまで来れたな」
「あぁ、沢山の別れを経験してきたがな。だがそれも今日までだ、ここには聖女が残した五つの武器が揃った。負ける道理が全くねぇ」
かつて大地に呪いが掛かっていた時代があった。
川は濁り、作物は取れず、夜な夜な邪霊が飛び交う時代があった。
人々は神に祈りをささげ、一人の少女が力を授かり聖女となった。
だが、聖女の力をもってしても大地の呪いは完全には消し去る事は出来なかった。
時代は進み、聖女がただの象徴となり掛けた時、再び大地は荒れ狂う。
そんな時、聖女の力を受け継ぎし少女が自身に神の身を宿し、光輝く五つの武器を作ったという。
五つの武器はみるみる大地を浄化し、長年解けなかった呪いが完全に消え去った。
人々は聖女に感謝し、五つの武器はその地の守り神となった。
伝説の聖女の名はアリス
そして残された五つの武器は聖戦器と呼ばれるようになる。
王都には神剣エルドラム
ノースランドには聖剣アーリアル
ウエストガーデンには星槍スターゲイザー
イーストレイクには天弓アルジュナ
サウスパークには光杖ユフィール
「夜明けね」
朝日が差し込みレガリアの大地を照らしていく、丘の下には帝国の大群が埋め尽くさんばかりに広がり、開戦の時を静かにその身を潜めている。
言い伝えではこう残されている
このレガリアの地が再び闇に覆われる時、五つの聖戦器が揃い大地に光を照らす。
そして今、新たなる伝説が始まる。
「そんじゃいくか、これが最後の戦いだ!」
ランスベルト王子が光輝く神剣を掲げ大きく号令を下す。
『『『おーーーっ!!』』』
―― Fin ――
夜明けのレガリア ―光と影の双子の公女― みるくてぃー @levn20002000
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